第10話 ギルドに、ちょっと調べたいことがあると。

ギルドの仕事は、長時間にわたる。

日の出を回ったころに、開店の用意をする。

そして夜遅くまで対応することも多いので、

窓口対応は前半と後半の二人体制で行っている。


お昼ご飯のあたりで二人同時体勢になり、ご飯の時間を挟むことになる。

前半担当の人は、その後奥のスペースで情報を整理し、引継ぎをして後半担当に申し送る。

後半担当は、だいたい晩御飯くらいの時間になったら窓口を閉め、報奨金の残金を確認して金庫に保管したら、終了だ。



ギルド登録者の中には、賞金稼ぎといえる人が、数人いるのだ。

この町を拠点にし、モンスター討伐や宝石採掘など、体力のある人がほとんどだ。

その中で異彩を放つ人がいる。


「はい、今回はコイン60枚ですね。」

「どうも。」

挨拶もそっけないが、ひょろっとした体格で、およそそこまで稼いでいるとは、言われなければ気が付かないような。

報酬金を受け取ると、すぐに掲示板に向かい、次の依頼がないかチェックしている。


そして、登録の名簿には『転生者』にチェックが入っている。



この人が、この町で報酬金支払い額が一番多い。年間予算の、およそ20パーセントくらいが、この人ひとりに支払われている。

がっしりした体格の報酬額2位の人は、この人の半分以下なのだ。




総務のハムザくんの調査によって判明したこの事実を、ギルドの窓口の人も把握できた。

あー、あの人ですねと、窓口担当の人が皆、口をそろえて証言するくらいの、この町では有名な顔だった。



その転生者は、掲示板の依頼書をひと通り眺めたら、ギルドを後にした。


チリーン、カラーン

ドアの鈴がなって、パタンと閉まった。



*  *  *



チリーン、カラーン


ドアの鈴の音と、ギルドの中の鐘の音が同時になった。

外に待っていたハムザは、ゆっくりと振り返った。

横目で見ると、ギルドの建物から出てきた転生者が、大通りを歩いていく。



数日前から調査をして、この転生者に疑惑が浮上した。

ギルドの報酬金の支払額が、この人がダントツで多いことを。

過去を調べると、およそ4年くらい前にこの町に現れ、すぐにモンスター討伐を中心に報酬金を貰っていたこと。去年などは過去最高額になった。

しかも、そのお金は銀行に預けていない。すべて持ち帰っていることも。

当人の証言が、あまり無いため、不明な点も多い。武器や装具にお金を掛けている様子も見られない。ただ、レベルは少々高めだ。




冒険者で登録経験もあるレベル6のハムザは、その前にモンスター討伐の依頼を受けたときにも尾行を実施していた。

討伐の途中で、その転生者は、自分の家ではない所に立ち寄っている。山裾の平屋の一軒家で、そこには仲間が数人いるらしく、そこで一晩過ごしていた。

次の日はその家を離れ、仲間と別れている。ちなみにそのときの仲間も、もう一人家を出ていった。住んでる人は残っているようだったけど。

当の転生者は、依頼のモンスターの生息域とは違う草原に向かい、なにやら地面をほじくっていたり、木に成っている実や葉を見ていた。いくつか手に取っていたようだったが。

しばらくその周囲を散策してはゴソゴソしていて、日が暮れる前には家に戻っていた。

そして何も進展が無く次の日、また仲間の家に行って一晩過ごし、次の日に出てきて、そのままギルドに向かっていった。

そして、報酬金を手にして出てきたのだ。



今日は、その報酬金の行方を追うことを目的としていた。モンスター討伐の様子は分からなかったが、お金の行方だったらわかるだろう。


すると、その仲間の家に入っていった。

そして、やっぱり一晩泊って、次の日に出てきた。そして自分の家に戻ったのだ。


この転生者の疑惑が、一層深まった。

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