第9話 総務部のハムザくんの仕事をみてみましょう。

宿と酒場には、人が集まる。

そこには、様々な情報も集まる、ということだ。


3つの大都市に囲まれた、その中核のこの町は、行き交う人たちも様々。それぞれの大都市から来た人はもちろん、その向こうの、もっと田舎の人たちも、そのはるか遠くから旅をしてくる人もいる。


役所管轄のギルドや、宿屋・酒場の人たちは、とくにそういう情報を集めることが、仕事のひとつだ。



「このお金は、西の町のものですね。一泊コイン6枚ですがいかがですか?」

「北の国の言葉を話せるスタッフを、いま呼んでおりますので、少々お待ちください。」

「南の湖の周りですか。なにかモンスターに変な動きがあったんですか?」


とくにギルドでは、そういった情報を、常に記録している。メモ用紙も束になっていて、役所ではその情報を管理し、月ごとにまとめられる。変化が起こった場合は、町の掲示板やかわら版で掲示することになっているのだ。町の住民が、みんなその情報を知ることが大切とされている。


だから役所には専属筆記係が数名、常駐されている。



「あ、ハムザさん、このメモは、どういうことなんですか?」

ギルドからいくつかの箱を持ち帰ってきた、総務新人のハムザくんは、今日は3人いる筆記係から質問を受けた。


「はい、えぇと…あ、これは、モンスター討伐した人の、モンスターの匹数チェックですねえ。たぶん、引き取り業者の明細が別にあると思うので、それと照合してまとめてひとつにして報告書に添付するといいですね。」


「すいません、こちらはなにか事故が起こっていたようです。」

「えーと、あ、宝石の砕石場ですね。転落して、足をくじいたみたいですね。これはあとで病院に確認してみます。」


「これは朝のメモですけど、報酬金の残金が少なくなっているそうです。宿から多少のお金を前借するかもしれないと書かれています。」

「あー、そうなんですか。このメモですね。じゃあこれは財務に伝えてきます。」

と、そのメモを手に取り、内容を読んでいき、

「…、おとといも、報酬金、補充したよな…?あれ?」



*  *  *



「え?また?ずいぶん討伐しているのねえ。」


財務に知っている顔と言ったら、デフネさんだ。窓口に着いて、直接デフネさんに声をかけた。

報酬金のファイルを出してきて、最新情報からパラパラとメモをめくり、


「おとといにコイン150枚、その2日前に200枚、そのまた2日前にも150枚、その4日前にも100枚出してるわね。その前は…、えーと、11日空いて100枚か。」

「最近10日くらいで、急に報酬が増えてますね。」

「…モンスターの討伐なのかしら。他の報酬ってなかった?」

「あ、…あー、内訳は調べてませんでしたね。そうか、報酬ってモンスターだけじゃなかったもんな。過去からの傾向を調べてみましょう。」




再び、筆記係の部屋に戻ってきた。

「おお、もう終わりそうですね。早いなあ。」

「今日は3人もいますからね。みんな慣れてきたし。」


「そうしたら、申し訳ないですけど、さらに詳しい調査が必要になりまして。ウチの総務部からの許可は下りています。時間のある範囲で構わないので、これを。」


最近のメモをまとめた報告書をいくつか持ってきていたものも、机の上に出した。


「最近の出来事を、スケジュールの日ごとにひとつにまとめてほしいんです。」


この日にあった出来事を、ギルド・登録者・報酬金額とその内容・イベント・その他の項目にして、1枚にまとめる。それを順番に並べて保管する、というもの。


「いつの分から始めるかは、自由にしていいですが、漏れが無いように気を付けてください。書き終わったメモはなにかチェックを入れて記入済みにして、別に保管しておきます。」

「これは、ギルドの日付が基準ですよね?」

「あ、あー、そうですね。暦(こよみ)は、この町の日付を基準にしてください。その方が分かりやすいですよね。」



大都市とこの町は、暦が違う地域があるのだ。この町では太陽を基準にした1年の日付を採用しているが、他の大都市では年の初めの日にちが違っていたりする。そこの王様が決めたこととか事情があるらしいのだが。


「あ、じゃあ、天文部にちょっと確認してきますね。日付はあとで変更できるようにしておいてください。」


うーむ、総務って、ホントにいろんな仕事があるなあ。財務に天文に、ここまで広範囲の作業になるとは思っていなかったなあ。

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