第8話 町における脅威に立ち向かう中枢部は。
役所の、私の部屋で、書類整理をしていた時、ズン…と地面から響く音がした。
「ん、なんだ?」
すぐ窓の外を見てみると、東の町はずれあたりから、丸い煙がひとつ上がっているのが見えた。
「あれは…炎系の呪文か?火事の色ではないな。モンスターが来ているのかな。」
火事で燃えるときの煙と、呪文の時の煙は、色が違う。だからおよその判別は付くのだが。
詳細報告が届いたら、内容を見てみよう。
東だから、農園の傍だろう。基本的にモンスターと人間は食べるものが違うから、作物被害が出ることはそれほどない。ただ、農園をバトルの場所にされることがあるから、その保証は考えなければならない。
最近は民間で保険会社が作られて、そういった被害分の保証金額が出てくるという商品があると聞く。
どんどんと、新しい商売が始まっている。思いもしなかった方向に進むものも出てくる。
「最近は、次々と新しいシステムが出てくるもんだな。着いていけんよ。」
「まったくだな。歳はとりたくないもんだ。」
すぐ横にいる町長も同意した。
「しかし、この町は、どんどん大きくなる。今までに無かったものも、まだまだ出来るようになる。今回の…えーと…」
「税、ですね。」
「そうそう、税制のおかげで、町の財政状況がかなり改善されて、借金も返せるようになっているから、私たちもなんとか着いていかなければな。」
「まったくです。何歳になっても、いつも勉強ですよ。」
ははは…と二人で笑い、
「…あれ?町長の、これはペンダントですか?」
胸に青い石の宝石が付けられている。着ている服が派手だったので、今気が付いた。
「ああ、この前、役所に業者が来ていたようでなあ。新店舗の開店予定の宝石商なんだそうだ。小さいだろ?爪の半分も無い小さいものだが、石は本物だ。あの、南西の山の採石場。同じ場所の同じ石なんだと。新商品のサンプルとして持ってきたんだそうだ。私に是非と言って渡されてな。」
「それにしては、色がずいぶん鮮やかですね。良い質のモノではないですか?」
「なんでも、加工技術が上がったらしくて、標準でこれくらいの輝きが出るようになったんだそうだ。今までの作られた石も、それで磨き直したら、同じように綺麗になるんだそうだ。」
「へえ。こういうところでも、新しいものが出来ているんですねえ。ホントに、武器だけではないですね。」
「身の回りの、あらゆる商品に至るまで、どんどん新しくなってくるよ。」
「ホントに、着いていけませんねえ。」
ははは…と、また笑い、そして軽くため息をついた。
* * *
モンスター討伐の賞金は、実は依頼者は役所がほとんどなのだ。
だから今までは、手数料の収入から分けていたので、ひと月でこれくらいという金額を設定していた。
これからは、税収があるので、今までよりも多くの賞金を設定することが出来る…のだが。
月に一度の部長課長会議の会場。町長と、私も、もちろん参加している。
今回の議題はモンスターに関する件がメインだ。
総務(ギルド)「モンスターの討伐単価は、現状の設定から変えられないと考えています。討伐した証拠品の引き取り金額も、担当業者においては今のところ変更はないそうです。」
財務「もし、値上がりの話が来たときはどうするかな。」
総務「モンスターの生態調査を行っていき、実際にどれだけの個体数があるかを調べなければなりませんな。」
商工会「我々にとっては、本当は魔物がいない方が良いんですが、冒険者や武器屋の存続を考えると、一定数の魔物は確保していかなくてはならなくなってしまいます。自然の増減における生態状況が好ましいと考えられます。」
総務(ギルド)「単価の高いモンスターばかりを狙う冒険者も、いないわけではありませんからね。そこは致し方ないかと。」
財務「しかしそれによって、モンスターの生息地域の変化が出たり、極端な増減に結びついたら、地域のバランスが保てなくなってしまう。強いモンスターが増えることになったら、町の外壁強化工事も必要になってきます。」
土木部「いまはまだ簡単な柵と聖水と罠で補える程度だから良いけどな。」
自衛団「先日、東の関所の内側で、ちょっと強めのレベルのモンスターが入り込んだという報告が寄せられています。たまたま近くの冒険者たちが対応しましたが、逃げられたそうです。」
財務「臨時の予算も必要になってくる可能性が出てきましたね。」
銀行「この前から、町の『税収』によって、役所の収入が賄われるようになっていま
すが、結論から言いますと、昨年度比で、20パーセント程度の増収です。ただし、そのプラスの半分、約10パーセント分は、昨年度の借金返済の一部に充てられると想定しています。」
ムスタファ「ほお。それでもかなりの金額が入ってきたようですね。」
土木「市場の改修工事も緊急箇所がありますし、他にも滞(とどこお)っている事業もあります。優先順位をそれぞれ決めていき、円滑に回していきたいと思っています。」
市長「この町は、各大都市から離れているので、モンスター生育地域のど真ん中にある。武器調達場所の中核地と宿と繁華街の大事な場所だから、いろんな人が常にいつでも訪れる場所だ。そういったコンセプトで、この町は大きくなった。そして、これからもだ。この住民たちにとっても、この町はいい町だということを感じられる町でありたい。以上だ。では、解散。」
* * *
「ふうー、今回はけっこう緊張した内容でしたね。」
「大都市ほどの警備がある訳でもないし。税収が増えたと言っても、人口2万の町だからな。」
「町の維持に必要なものを、いろいろやってみましょう。」
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