幕間 メイベル・クレイン男爵令嬢、闘技場控え室にて
メイベルは闘技場控え室の椅子に腰掛け、窓の外を眺めていた。
会場では、土属性の魔法を使える作業員たちが大急ぎでステージの修繕を進めている。
自分たちが派手に壊したせいで、決勝は明日に持ち越しになるかと思ったが……この分だと午後には行われそうだった。
ただ、もう自分には関係ない。
負けてしまったのだ。
言いようのない心細さが湧き上がってくる。
これまでは、ただひたすらに自分が果たすべきことだけを考えていればよかった。たとえその先に死が待っていようとも、心を強く持つことができた。
しかし終わってしまった今となっては、果たすべきことなどない。
自分がこの先どうなるのかもわからない。
わからないことが不安だった。
傍らの卓から、カチカチという音が響く。
見ると、なぜか外からついてきた一羽のカラスが、卓の上で歩き回っていた。爪が硬い木の卓にあたり、カチカチという音を立てている。
このカラスがそばにいると思うと、不思議と心が落ち着いた。
ふと、セイカからかけられた言葉が思い返される。
――――もう大丈夫。
あの言葉を聞いた時。
不思議と彼に兄の姿が重なって、安心する心地がした。
大丈夫だよ、メイベル。そう言って頭を撫でてくれた、かつての兄の姿が。
セイカは強い。
自分と戦っていた時も、まだ余裕があるように見えた。
ただそれでも……今のカイルに勝てるかどうかはわからない。
別人となってしまった兄でも、失ってしまうことはずっと怖かった。
だけど今は、それと同じくらい。
兄に挑むセイカのことが心配だった。
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