第5話 敗者には沈黙が一番だ
俺は妻の美紀と冷房の効いたリビングルームで夕飯を食べていた。
「ただいま」
息子の健太がそこへ帰ってきた。
「夏の地方大会、メンバー外になってしもうた」健太は泣き笑いのような表情で言った。
俺はお椀を持ち「そうか」と言った。そしてご飯を口に掻き込んだ。美紀は箸を置き、目頭を押さえた。リビングルームはなんとも言えない沈黙に包まれた。健太は着替えてくると言いリビングルームを出ていった。
美紀がこちらを見て言った。
「あんた、なんで健太を慰めへんの?」
こいつは何を言っているのだと思った。
スポーツの世界で慰めをかけるなど必要のないことだ。それは頑張ってきた健太の努力に対して失礼だ。健太は努力した。そしてメンバー外になった。それはメンバー選考のバランスによる落選かもしれないが、健太が本当に実力があればメンバー外にはならなかっただろう。つまり健太の実力不足だ。そんな健太に慰めなどいらない。健太もそのことは分かっているだろうし、ましてや親からの慰めなど余計なお世話だろう。
スポーツは勝つか負けるか。
勝ったものには称賛を、負けたものには沈黙が一番だ。
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