第4話 野良犬となったお母さん

 小学生低学年の頃。たしか冬だった。学校帰りに私は家の近所の里山に一人で冒険しにいった。当時、私はひとりで遊ぶのを好んだ。里山への冒険も私の好きな遊びのひとつだった。しかしお母さんからは里山へは絶対にいってはいけないと言われていた。そんなお母さんの忠告を無視して里山へいくのがスリリングだった。山に入って15分ぐらいで秘密基地へたどり着いた。秘密基地は枯れた木の枝を積んで壁を作って畳一畳ぐらいのスペースがあった。基地で私はぼうっとしていた。ここでぼうっとするのが好きなのだ。家に帰っても昼間から酒を飲んでいる父親がいるだけだ。やがて私はだんだん眠くなって基地の中で寝てしまった。起きたらそこは真っ暗だった。私は闇に包まれた森のなかにいた。私は一人で暗闇にいるのがこわくなってきて、泣き出した。泣いていると闇の中から何かが近づいてきた。一匹の野良犬だった。野良犬は私の頬をぺろりと舐めた。そして野良犬は歩きだし、遠くへいった。野良犬は気まぐれだ。私は寒くなってきてガタガタと震え始めた。街へ戻りたかったが暗くて道がわからない。私は呆然となった。しばらくしゃがみこんでいると背中をツンツンと突かれた。私は驚いて後ろを振り返った。後ろにいたのはさっきの野良犬だった。野良犬はさらにツンツンと私の背中を押してくる。私は戸惑ったが押されるがまま歩き出した。そして後ろから押してくる野良犬と歩いていると、山の入り口にたどり着いた。私は助かった!と思った。野良犬さんありがとう!私は自宅まで帰っていった。しかしなぜか野良犬は自宅まで私の跡をついてきた。私は玄関を開け自宅へ入るとお母さんが洗面所だ倒れていた。私はお母さんと叫んだ。その時開いた玄関のドアから野良犬がそろりと入ってきた。野良犬は私を見た。その時頭の奥から声が聴こえた。「あまねちゃん、山へいったらだめでしょ。お母さん魔法を使って野良犬になりました。この魔法は一回使ったら死にます。あまねちゃん、これからは約束を守る子でいてね」

 私は思った。お母さんは魔法を使い野良犬となって私は助けたのだ。しかしその魔法の副作用でお母さんは死んだ。なぜこうなったかといえば、私がお母さんと交わした、山にいってはいけないという約束を破ったからだ。私はもう絶対に人と交わした約束は破らないと心に誓った。いつの間にか野良犬は姿を消していた。

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