1-9
あの日から、私、落ち着かなくって、気持ちがざわざわしていた。仕事の帰りには、あの店の前を通って、わざとゆっくり歩いてたり、お休みの日には、短めのワンピースで着飾って、メイクもバッチシ決めて、用事もないのに買い物に出掛けて、お店の前を通ったりしていた。
私、何をしているんだろうと後悔して、馬鹿みたいと思ったりしていた。プチも「最近、様子がおかしいぞ」って言ってきた。
あの微笑んだときの顔が忘れられない。好きという感情じゃぁ無いけど、私の中に住み着いたんだ。だけど、何となく、お店には入りずらかった。それにあそこは、木の扉で中の様子が見えないので、女の子には、入るのに勇気がいる。
仕事の帰りに、先輩の
海鮮の炉端風の居酒屋に連れて行ってもらった。私も、お刺身とか、久しぶりだったかも知れない。お父さんもお母さんもお肉が好きだったから。
「私ね、兵庫でも山ん中で育ったから、海のものが欲しくなってしまうのよ。ごめんね。無理やり、ここに連れてきてしまって」
「いぇ 良いんです 私も、食べたかったから」
「すずりちゃんは、よく、飲みに行くの?」
響さんは、会社では、私のことを左近さんと呼ぶが、休憩時間とか離れるとすずりちゃんと呼ぶ。私も、名前で呼んでと言われていた。
「いいぇ 私、お酒弱いんです。それに、お友達も私 少なくて・・たまに、中学からの親友と食事に行くぐらいです。だから、誘ってくださって、嬉しかったです」
「そうなの 彼氏 居ないよねー」
「はい 私 男の人とお付き合いしたことないです」
「えー 以外ね でも、告白されたことなんどもあるでしょーう そんなに、可愛いのに」
「そんな 無いですよ 何度か、あっても興味ない人ばっかで」
「理想高いからよ」
「そんなんじゃぁないですよ ただ、私、温かみを感じられる人が良いんだけど・・」
「むずかしいんだね 私なんか、付き合おうって言われて、普通に付き合っちゃった そのまま、ずるずると」
その時、近くで飲んでいた男の2人組が「一緒に飲もうよ」と寄ってきた。
「結構です。私達2人で話があるんで・・」と、響さんは断ったが
「じゃぁ 一緒にお話しさせてよ」と、もう一人が私に話しかけてきた。
その瞬間、 「シャー」と、プチの声が聞こえた。
「なんか 言ったか?」と男達が言っていたが、「まぁ いいか」と私の隣に座ろうとしてきたら
「フガァー」と聞こえたかと思ったら、「ア 痛てー」と男たちが頬を押さえていた。別に、血が出ていたわけでも無かったが
「なんなんだ 今の―」と、顔を見合わせて、「なんか、気味悪い 向こう行こうぜー」と、離れて行った。
「なによー 拍子抜け すずりちゃん 何か、聞こえたような気がしたけど・・聞こえなかった?」
「いいぇ 私には、なんにも・・」と、とぼけて
「彼氏とはお付き合いして、長いんでしょう 喧嘩なんかしないんですか」
「したわよ なんども でも、女って、一度、身体許すと弱いからね、喧嘩しても、抱かれたら忘れっちゃうんだよね」
「それは、私には、刺激が強いなぁ」
「そうだったわね 私達ね、年があけたら、一緒に住むんよ 少しでも、節約できるしね」
帰りの電車の中で、私は、少し、ほろ酔いだった。
「プチ さっきは、守ってくれてありがとう ああいう風に、寄って来られると、私 身震いしちゃうから」
「しょうがないよ 相手は、下心あるからね」
私、電車のドァのところに立っていたんだけど、さっきから、側にお酒を飲んでいる中年のおじさんが居るのを感じていた。
「おねえちゃん さっきから、何を独りでぶつぶつ言っているんだい あぁ ワシにも同じ年頃の娘がいてね 高校卒業したら、男とさっさと東京に行ってしまいやがった」
「そうですか お寂しいですわね」と、嫌だけど、返していた。
「そうなんだよ だから、いつも、飲んでしまってね おねえちゃん 可愛いね お尻なんかもプリンとして」と、撫でるような仕草をしたら
又、プチがうなった。その人は手を押さえて、「なんで、突然ヒリヒリするんだ 危ない もう、少しで痴漢になるとこだったわ」と独り言を言いながら、移動していった。
「私 プチが居ると 最強だね」と言いながら、ほろ酔いで、あの店の前を通って、帰って行った。
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