突入
前部甲板に通じる廊下を突き進む。
だが。
「こっちだ! 挟み込め!」
前からアサルトライフルを持った、乗務員達が現れた。
「マズイ……」
避けられる部屋も空間も無い。
子供達がいるから、むやみやたらに撃ちはしないだろうが、このままではジリ貧になる。
「退いて!」
引き金を引くホンの前、ヴァンプがそう叫び俺の前に出た。
SG552を乱射しながら突進していく。
勿論、奴等も撃とうとするが標的の後ろにいる、奪還対象に躊躇し判断が遅れる。
「遅い!」
脳ミソが発砲を許可する頃には、時すでに遅し。
ヴァンプに懐に入られ、為す術もない。フレンドリーファイアを考えると、引き金に掛ける指も緩くなるし。
……近接戦闘においては、彼女の方に歩がある。
彼女は正面の男の腹に、銃口を押し付けてから撃った。
5.56ミリ弾は身体を貫通し、後ろにいた男の身体にも当たる。
弾切れになり、無用の長物と化したアサルトライフルの銃床を右手で握り、右側にいた奴を殴りつける。
その間、左手でグロックをホルスターから抜き、殴った男に二発喰らわせた。
崩れる男のSG552を持つと、左側にいた男を射殺する。
「クリア!」
顔に返り血に浴びているが、彼女は満面の笑みだ。
戦場じゃ、ファンデーションではなく返り血の方が化粧になる。
……アイツと出会った頃、そう言ってたのを思い出す。
「やるな」
「まだ錆びてないからね」
「若いっていいなぁ」
増援が来ないので、一旦ここで体勢を整えておくことにした。
残弾が少ないP90からSG552に変える。
半透明な弾倉は、ジャングルスタイル(弾倉をテープ等で組み合わせ、素早い弾倉交換が行える方法)が無改造で出来るので、予備弾倉を合わせておく。
腕時計を見ると、針は突入まで残り三十分を示していた。
「もう少しで迎えが来る。もうちょっと辛抱してくれ」
そう子供達に呼び掛ける。
何人かの子供達は頷いた。
そんな時だった。
「嫌だ!」
一人が叫んだ。俺の発言への返答かと思ったが、違った。
ヴァンプが最年長と思しき子に、男達から奪ったであろうファイブセブン自動拳銃を差し出している。
それは、血で汚れていた
「何やってる」
「念の為よ。……頭数は多い方が良いわ」
「やめろ。子供に銃を持たすな。それに、嫌がってるだろ」
「…………」
俺は彼女の手からファイブセブンを奪った。
「ここは戦場で、俺達は戦士だ。でも、この子達は違う。……お前の考えも分かるが、今は無しだ」
一瞬、彼女は俺を睨んだがフッと息を吐き。腰に手を置いた。
「甘いわ」
「何とでも言え。俺を撃たなきゃ、ある程度の暴言罵言は見逃してやる」
「撃たなきゃ死ぬのよ」
「何の為に俺達が銃を持っている。自衛と、この子達を守る為だ。泥は大人が被ればいい」
その言葉に、ヴァンプは目を見開いた。その目には、怒りだけでなく哀しい色が見える。
「……頼む」
そう言い、俺は頭を下げた。
正直言って、彼女にとって子供達の保護は関係無い。
俺が任された仕事であり、彼女が負う責任ではないからだ。
彼女がこの話に首を突っ込んで来たのは、俺がいたからと人が殺せるからだ。
子供の事は、最初っから頭にないはず。
下手すればここでオサラバされるかもしれない。
盛大にへそを曲げられると困る。
「……分かった。分かったから。……少し、私も血が昇ってた」
ヴァンプが矛を収めてくれた。
俺は拳銃を死体の上に放り、汚れた手をそいつの服で拭う。
「ありがとうな」
彼女にフォローを入れ、子供達にも明るく話した。
「さぁ、行こうか。もうすぐヘリが来る」
気のせいかもしれないが、微かにヘリのローター音が聞こえる。
太平洋上空。CV-22B機内。
赤沼は窓に顔を貼り付ける様にして、外を見ている。
すると、離れた所に煌びやかな光を放つ物が見えた。
陸地は遠く離れている。つまり、船の光だ。
その後すぐに、船の輪郭が見えて来てその全容が露わになる。
「すげぇ」
誰かがそう呟いた。
赤沼の隣に座る、元SWATの女性班員は感嘆の口笛を吹く。
『前部甲板に人影を確認。今ハッチを開ける』
パイロットからの無線。
大きい機械音を響かせながら、ハッチが徐々に開いていく。
身を乗り出しながら覗く。そこには、銃を持った大人の男女が一人ずつ。子供達が手を振っている。
立ち上がった班員が降下用ロープを外へ蹴り出す。
「降下準備!」
班長が怒鳴り、前列にいる班員が立ち上がった。
けれど、けたたましいローター音に混じって、甲高い金属音がする。
『撃たれてる!』
パイロットが叫んぶ。
このオスプレイは、アメリカ空軍のれっきとした装備だ。
それを知ったら、
この際だから、ふんだくって新品か新しい機種でも買えばいい。
赤沼含め、元軍属の班員はそう考えていた。
呑気かもしれないがそんな事でガタガタ抜かすほど、彼等はチャチな修羅場は潜っていない。
「マリア!」
班長は赤沼の隣にいた班員を指名する。
彼女は立ち上がり、ハッチの前まで行くと自身のSCARを構えた。
そのSCARには、倍率の高いACOGスコープが装着されている。
元ロサンゼルス市警SWATの狙撃手。
そんな経歴を持つ、赤沼浩史の相棒。
マリア・アストール。
彼女はオスプレイを狙う敵を、正確に撃ち抜いていく。
「クリア」
そう報告すると同時に。
「GO GO GO!」
何人かの班員がロープを伝い、甲板へ降りていく。
赤沼も甲板へ降り立ち、日本から派遣された男と邂逅する。
「タンゴ七か?!」
「そういうアンタは、アルファ一か」
「その通り」
赤沼とタンゴ七こと石田は、握手を交わした。
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