守る為に
入ってきた男と目が合う。
そいつの顔色は、みるみるうちに赤くなり。
「キサマ!」
手がP90に伸びたところで、ヴァンプに撃たれ床に転がった。
何度か痙攣したが、すぐに動かなくなる。
檻の中から悲鳴があがった。
「逃げるぞ! 急いで!」
牢の鍵を開け、俺もUSPを改めて抜いた。
掛けていた安全装置を外し、子供達に逃走を促す。
「皆で手を繋げ! 離れるなよ」
今度はP90を拾い上げ、コッキングする。薬室内に収まっていた弾が一発、床に落ちる。
予備弾倉も奪いスリングで吊った。
「ヴァンプ! テメェは殿だ、俺が切り開く!」
「そう来なくっちゃ!」
来た道は一本道。待ち伏せされていたらアウトだ。
ならば、分の悪い賭けになるが、男が来た方へ突っ込んだ方がいい。
「おじさんから離れるなよ!」
そう叫びながら扉を開けて、P90を構えながら進む。
「おい! 今の銃声は何だ!」
正面にSG552アサルトライフルを持った奴が現れた。
さっきの男といい、服装はこの船の乗務員と一緒。やっぱり、堅気の船の堅気の乗務員ではない。
落ち着いて引き金を引き、目の前の男を蜂の巣にする。
防弾チョッキも容易く貫く尖頭弾に当たって、無事な人類はいない。
糸が切れたマリオネットが如く、崩れ落ちる。
ヴァンプは、そいつが落としたSG552を拾った。
「テーマパークに来たみたいね」
槓桿を引きながらそう呟く様子は、彼女の気持ちがよく伝わる。
「馬鹿言ってねぇで、真面目にやれ。……子供が怖がってるだろ」
「しょうがないでしょ」
口を尖らせ、文句を垂れるが無視する。
銃声を聞きつけ、多数の乗務員が駆け付けてくる。
なので撃たれる前に、敵を撃ち殺す。
それを繰り返しながら、奥へ進む。
「リロード!」
五十発入りの弾倉が空になり、新しい弾倉に変える。その際に出来る隙を、ヴァンプにカバーしてもらう。
「キリが無いわね」
「ゴキブリ並にしぶといな」
俺は扉に寄りかかる様に死んでいる男の身体をどかし、扉を開く。
すると、一気に中の音が溢れてきた。
不満げな声と、それを窘める声がする。
目の前には、演説台。どうやら、俺達は俗言う舞台裏に来てしまったらしい。
「……ここは?」
船の正式な設備には無かった。つまりは、人身売買関係の設備だ。
「もしかして、ここがオークション会場?」
「……なるほど」
引き返そうと、ドアノブから手を放そうとした瞬間。
「いたぞ! こっちだ!」
後ろから声がした。
退路は無い。ここを突っ切るしか、道はないのだ。
「走るぞ。皆! 止まるな!」
子供達に呼び掛け、全員の同意を確認してから駆け出す。
垂れ幕の切れ間から出た途端、俺を眩い光を包んだ。
スポットライトだ。
銃口を薙ぎ払う様にして、引き金を引く。扇状に放たれた銃弾の何発かが、スポットライトを破壊する。
多少チカチカするが、視界は戻った。
その時、目の前の客席に座る中年達の姿が見た。
一様に突然現れた俺達に驚いている。
……その顔を見た瞬間、何故かコイツ等全員を撃ち殺したい衝動に駆られた。
しかし、がむしゃらに動く足が、その破滅的な思考を打ち消した。
従業員が来ても、無暗に撃たれないよう客席に飛び込む。
何人かの護衛らしき人物が立ち上がったが、気にしてる暇は無い。
観音開きの扉を開いた先は、予想した通りショッピングモールに続いていた。
ここは吹き抜けの五階。
奥まった場所にある、ブティックの中だ。
子供用の衣料品やアクセサリーが陳列されている。
興味が無いから、チラッと見ただけで行ってしまった店だ。
よく考えれば、商品と結びつけられたかもしれないのに。
舌打ちしたくなるが、口にそんな余裕は無かった。
息を吸い込むのに必死だ。
「前部甲板に出るぞ! ヘリが来る!」
エレベーターの前で片膝を付き、それが来るまでの間、敵を狙う。
ブティックから敵が出てきたと同時に、エレベーターが到着した。
コンマ数秒までいた位置に、銃弾が飛んでくる。
「……あっぶねぇ」
ふと、子供達に目を向けると皆、一様に不安げな表情を浮かべていた。
「安心しろ。おっちゃん達が、絶対に守ってやる」
子供達が必要以上に怖がらない様に、目を見てしっかりと伝える。
……いささか、残弾数が不安だが。やるだけやるしかない。
そう思い、俺はダットサイトを覗き込んだ。
グアム島。アンダーセン空軍基地。
この基地の滑走路から、一機の
アメリカISS本部強襲係第二班に所属する、二十名がフル装備で乗っている。
元軍人や元SWATの班員達は、それぞれSCAR-Lを所持している。
指揮を執るのは、第二班班長メリッサ・トールである。
「目標は客船『リンカーン』。前部甲板に降下の後、速やかに船内を制圧。だが、日本本部所属のタンゴ七の回収と、子供の保護が最優先だ。……アカヌマ、タンゴ七から連絡は?」
メリッサから指名された男、赤沼浩史……ことアルファ一は首を振った。
「定期連絡以降、着信はありません。問題なしと見るか、連絡が出来ない程重大な問題が発生しているかは、分かりかねます」
「……そうか」
赤沼は自身の手の中にある携帯端末を、しばらく見つめていたが渋い顔をしてポケットに仕舞った。
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