協力者と調査
ヴァンプを部屋に招き、アルファ一に不測の事態として連絡をする。
流石に向こうも、傭兵時代の仲間が乗っているとは予想していなかったようだ。
『――しょうがないですね。まぁ、正直に言ってもいいですし。適当言ってもいいですよ。大事なのは、その女性が、我々の敵にならない事です』
そうアルファは言い、突入の詳細を伝える。
今から二十四時間後に、グアム島の米空軍基地からヘリでこの船に向かう。
前方甲板にラペリング降下後、速やかに船内を制圧。
そして、船内にいると思われる児童の保護を行う。
それには、俺と……ヴァンプの働きが必要になる。
『電話越しで申し訳ないですが、よろしくお願いします』
アルファ一は、頭を下げているに違いない。
ISS本部強襲係に属しているあたり、強いのは間違いないが余程のお人よしだ。
電話が切れる。
携帯をポケットに仕舞い、図々しくも冷蔵庫にあった水を飲んでいるヴァンプに視線を向けた。
「どう?」
「……お前がアホな事をしない限り、何も無いとさ」
凝り固まった首を回し、目の前の女を睨む。
「聞かせてよ。何をしにこの船に乗ったのか」
「聞いて何をするんだ?」
「何って? 楽しむのよ」
おとぎ話を聞かせろとせがむ子供みたいだ。
ここで適当言ったら、きっとこじれるだろう。ならば、素直に真実を話しいた方が良い。
……リスクは増すが、致し方無い。
「いいか。俺が……いや、俺達がやろうとしてるのは……人身売買潰しだ」
ざっと概要を話してやると、ヴァンプは目を輝かせた。
俺が話してるのは、白雪姫の物語じゃないんだぞ。
そうボヤキたくなるほどに。
だが幸運だったのは……女が俺の想像以上にイカレていた事だ。
面白い事好きの大馬鹿でも、ここでは心強い味方に違いない。
そう信じよう。
「……面白い! ……警護の仕事より、よっぽど」
「タイムリミットは、二十四時間。子供達の保護を最優先」
「殺しは?」
「なるべく無し。……ただ」
「ただ?」
「銃向けられたら、容赦なく殺れ」
腰のグロックを指さす。
「分かった」
彼女は、元気よく頷いた。
再会を約束し、別れる段になって俺は彼女を呼び止めた。
「……言っとくけどな。他人にチクったら、俺はお前を殺すぞ」
USPを抜き、見せつける。
その言葉にヴァンプは。
「楽しみを邪魔されたくないのは、私も一緒だから」
そう返す。
俺もイカレ扱いされるのは心外だが、裏切られるよりマシだ。
「忘れるんじゃねぇぞ」
念を押し、彼女の背中を見送った。
更に俺は十分経ってから部屋を出る。地理を把握しておくのだ。
まずは船内で一番人がいるホールに向かう。社交場なだけあって、深夜と言えど人は多い。
俺はざっと見まわし、立ち入り禁止の位置を確認する。
それから周囲の空気に溶け込むように、なるべく息を殺しゆったりとホールを回っていく。
それから、乗務員の視線が外れた瞬間を狙い、ドアノブを捻る。
普段の出入りの事もあり、鍵は掛かっていない。
それに、ここは地球上で一も二も治安の良い外面がある。
こんな所に入り込む不届き者はいない……という思い込みもある。
ドアを閉めた瞬間から、俺は拳銃を抜き足音を立てない様に廊下を進む。
華美な装飾とは無縁な、埃一つ無い白い無機質な場所だ。
船内というよりは、どこかの研究所を彷彿とさせる。
人を人として扱う最低ラインだけを守ってるみたいな……そんな印象を受けた。
開けられる扉を片っ端から開けていき、部屋の配置を頭に叩き込む。
そして、不自然な場所を見つけた。
ロッカールームや機関系や操縦系に関わる部屋に、防犯用カードキーの装置が取り付けられているのは分かる。
だが、名無しのドアに何故カードキー施錠装置があるのは、おかしいだろう。
と言うか、几帳面に部屋の名前が記されたプレートが貼ってあったのに、ここだけ唯一プレートが無い。
怪しむなと言う方がおかしい。
拳銃でぶっ壊してもいいが、今ここでやる訳にはいかない。
扉を睨みながらも、今日の所は引き上げる事にした。
急いては事を仕損じる。
……昔の人は良い事言ったものだ。
乗務員に見つからない様に、デッキ側の扉から出る。
いつの間にか朝日が昇っており、とても眩しい。
煙草の一つも吸いたくなるが、持っていない。
それに、この船は全面禁煙だから誰かに恵んでもらう事も出来ない。
諦めて大きく息を吐き、俺は懐に忍ばせていたパンフレットを出した。記憶にある部屋の配置と当てはめる。
そして、あの名無しの扉の位置と、昨日見た吹き抜けショッピングモールの位置が近い事が分かった。
仮にあの扉の先に人身売買会場があるとしたら、客はショッピングモール側から入るのかもしれない。
乗務員用出入口より、そっちの方が自然だろう。
ホールほどじゃないが、昼夜問わず人がいる場所だ。
他の客も目の前にある商品に注目して、近くの人間の場所なんて把握できない。
理にかなってる。
……あまりの出来の良さに、最初っからこの船はそれ目的で作られたんじゃないかと考えてしまう。
そうだとすれば、この船に『リンカーン』なんて付けた奴は、余程の皮肉屋に違いない。
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