第11話:私の勇者様
――――――――――ロバート視点。
今日は雨だ。
薬草屋を開けてはいるが、開店休業ですねとフィオナさんが笑っていた。
ふう、その微笑みがボクを苦しめるのだ。
思わず頭を抱える。
どうやらボクはフィオナさんと仲良くならねばならない運命であり、使命であるらしい……という村長以下村人達のプレッシャーが。
いや、そのこと自体に何の異論もないけれども。
だってフィオナさん綺麗で可愛くてしっかり者で性格も良くて、ボクにとって運命の人だし。
ただそのためには、必ず乗り越えなくてはならないミッションがあるよね。
それは……『名前を呼び捨てにする』、これだ。
あっ、今何だそれってバカにしたでしょう!
カップルってそういうものらしいんですよ(聖女カリンからの情報)。
フィオナ……あああああああ呼び捨てなんてムリ!
お前聖女を呼び捨てにしてるだろうって?
だってカリンとは対等の関係だもん。
でもフィオナさんは違うよね?
命の恩人で家の主人だよ?
居候の身で呼び捨てにするっておかしくね?
「ロバートさん、どうしました? 身体の調子でも悪いんですか?」
「いいいいいやいや、平気です。お気になさらずに」
不審げな顔をしたフィオナさんが近付いて来て、おでこ同士をこつん。
ああああああ! こ、これは第一次接近遭遇!
顔が近い顔が近い、というかくっついてるもうダメ好きい……。
「熱が少しありますか? 顔が赤いですよ?」
「そうかも……」
ごめんなさい。
熱は今出ました。
「どうせ今日はやることありませんから、ゆっくり休んでてくださいな」
「そうします……」
「あれ? 誰か来たようですね。バーバラさんかしら?」
フィオナさんが店に顔を出している間に、すごすごと自分の部屋の布団に潜り込む。
ああああああ情けない!
何てボクはヘタレなんだ。
◇
――――――――――フィオナ視点。
「何てロバートはヘタレなんだろうねえ」
「辛辣ですね」
バーバラさんは腰掛けるなりそう言います。
バーバラさんの目にはヘタレに見えるんでしょうか?
ちょっとせっかちな方ですからね。
「フィオナがベタ惚れなことくらい、見ればわかるだろうに」
「ちょっ! 声を落としてくださいよ」
ロバートさんに聞こえちゃうじゃないですか。
いくら何でも恥ずかしい。
私だっておでここつんは勇気が必要だったんですからね。
カップを口にしたバーバラさんが、驚いたように言います。
「おや? ただのハーブティーじゃなくて、砂糖が入っているのかい?」
「試験的にサトウキビの栽培を始めたんです。売るほどはないんですけど、ちょっと口寂しい時に甘味があると嬉しいじゃないですか」
「いいねえ。砂糖は買うと高いからねえ。心遣いが嬉しいよ」
褒められると私も嬉しくなりますね。
これもロバートさんが来て、管理できる畑の面積が格段に広がったからこそ可能になったことですけれども。
「まったくロバートは。腰抜けなんだから」
あ、話が戻ってしまいました。
「不満ですか?」
「フィオナだって不満だろう? 全然二人の仲が進展しないじゃないか」
「だからもっと小さな声で話してくださいよ」
「男らしいところを見せてみろってことだわ。大体フィオナの方が一〇も年下なんだろう?」
「そうらしいです。ロバートさん童顔ですから、今でも信じられないんですけど」
「どっちがリードすべきかなんて、火を見るより明らかじゃないか」
ごもっとも。
でも……。
「バーバラさんは戦士ロバート様のこと、覚えてます?」
「もちろんさね。惚れ惚れするようないい男だったねえ。筋肉質で颯爽としててさ」
「うちのロバートさんだって、割と筋肉質なんですよ」
「そうなのかい?」
「ええ。一見貧弱ですけどね」
「そうかいそうかい。フィオナもちゃんと見るとこ見てるんじゃないか」
思わず顔が赤くなります。
「ロバートさんのことは覚えていました?」
「勇者アーサー様かい? いや、あたしも遠目でしか見たことなかったさ。こんな初心な坊ちゃんだとは思いもしなかったよ」
初心な坊ちゃん……でもいいんです。
「……戦士ロバート様は確かに素敵な方でした」
「それでもあの一見貧弱ロバートの方がいいのかい?」
「そうですね。戦士ロバート様に迫られたりしたら、緊張してしまいますよ」
「違いないねえ」
アハハと笑い合う。
「ロバートさんは、私の『声』に応じてカルカ村に来てくれました。村を救ってくださったんです」
「うん。それで運命の人、か。いい話だねえ」
「でしょう? 私は信じているんです。ロバートさんは必ず応えてくれるって。だって私の勇者様ですから」
「おうおう、フィオナは乙女だねえ」
「いつか勇者様らしい、勇気のある格好いいところを見せてくれますって」
やる時はやる人だと思うんです、多分。
勇者様ですもんね。
カップを置くバーバラさん。
「御馳走様。二重の意味でね」
「あはは、どういたしまして」
「でも時間がかかりそうだね?」
「そうかもしれません」
「カルカ村の少子高齢化問題の解決までには」
「えっ?」
村長さんみたいなこと言いだしましたよ?
バーバラさん、まさかスコーンで懐柔されましたか?
……私もあのスコーン食べたくなってしまいましたね。
「帰るよ。キャベ草あるかい?」
「一昨日採取したものなら」
「もらっていくよ」
「毎度あり。いつもありがとうございます」
バーバラさんが優しい笑みを返してくれました。
皆に愛されてるんだなあと思います。
私って幸せです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。