第9話:美味しいスコーンなんですもん

「ロバートさんが剣の達人ってどういうことですか! 全然わかりません。説明してください」


 村長さんの家に通された後、村長とロバートさんに詰め寄りました。

 どう見ても村長さんとロバートさんは共犯です。

 共犯というのは変かもしれませんが、二人でわかり合っていて私に教えてくれていないことがあるようです。

 失礼じゃないですか、ぷんすか。


 村長さんのふーというため息。


「ロバート君、よろしいかな?」

「はい、ボクではうまく誤魔化せそうにないので……」

「誤魔化さないでください!」


 何なんだろう。

 この期に及んでまだ誤魔化すこと考えてるんですけど?


「仕方ない。ズバリ全部話そう。ロバート君の正体は勇者アーサーなんだ」

「はい?」


 いや、勇者様なら村長さんが任せるって言ったことも、盗賊を歯牙にもかけない圧倒的な剣術にも納得できます。

 でもロバートさんの年齢、私と同じくらいでしょ?


「ロバート君は二六歳だ」

「マジですか」

「童顔なんです。それでいつもフードを被ってました」

「フィオナは勇者様御一行を見たことはあったか?」

「戦士ロバート様以外は、遠目でしか拝見したことありません」


 どうやら二人とも大マジのようです。

 でもおかしくないですか?


「勇者アーサー様は王女様と結婚されたのでしょう?」

「シャーロット姫が選んだのは無学で子供っぽいボクじゃない。教養にも武勇にも欠けるところのない男、戦士ロバートなんだ」

「しかし国民を納得させるために、そして対外的にも第一王女と結ばれるのは勇者である必要があった。だから……」

「ボクは戦士ロバートと名を交換し、魔法の使用を禁止された上で王都への接近を禁止されたんです」

「そ、そんなバカなことが……まさか追放?」


 頷く村長さんとロバートさん。


「魔法の使用については構わないんだ。カルカ村は辺境区の自治村であるから、王都の法は及ばない」

「あっ、そうだったんですか? 何だ、心配することなかったな。今後ボクの魔法が必要な機会がありましたら、ぜひ言ってくださいよ」

「うむ、ありがたいことだ。村長としてよろしく頼む」

「そんなことよりロバートさんの王都追放についてですけれども。救国の大功労者に対して、あまりにもひどい仕打ちじゃないですか。許せません!」


 ロバートさんどうしたんですか。

 これは怒っていいですよ?


「いえ、その代わりにたくさんお金もらったんですよ。それにボクもシャーロット姫と戦士ロバートが結婚すること自体には賛成です。戦士ロバートは気持ちのいいやつなんです。お国の事情もわかりますし」

「だからといって……」

「それでロバート君は……勇者アーサーは運命の女性を探す旅に出たんだ」

「あっ、ロバートさんの探しものとは……」

「はい、探しものは見つかりました。フィオナさん、あなたです」


 ……どゆこと? 運命の女性?

 嬉しい以前に疑問符が頭を占めるのですが。


「勇者とはどういう者だか、フィオナは知っているかい?」

「大神の加護を受けた、この世にただ一人の存在ですよね?」

「その通りだ」

「ボクはフィオナさんの助けを求める『声』を聞いて、この村を救わなければと思ったんです」

「それは……」


 私の心の『声』は遠くまで届くようだ、と気付いてはいました。

 村の危機の時、勇者様は私の『声』を聞いてカルカ村に来てくださったんだ。


「美しい『声』でした。魔王戦後、ことあるごとに思い出される忘れられない『声』だったんです。目標を失っていたボクは、日に日にその『声』の持ち主に会いたい気持ちがつのりました」

「それで旅に出た……」

「あの頃すごく忙しくて、どこだったか場所忘れちゃってましたけどね。いつか会えると思ったんです。運命の人に」


 私がロバートさんの運命の人……頭が芯の方から熱くなります。

 笑うロバートさん。


「ボクに冒険者以外の仕事はできそうにないと重々理解したことも、旅に出た理由の一つですけれども」

「それ今言わなきゃいけないことでしたか?」


 アハハ、ロバートさんったら。


「村長によると、フィオナさんは伝令神の加護持ちなのではとのことです」

「村の衆の中にもフィオナが特別な力を持っていること、フィオナに村が救われたことを知っている者もいる」

「……そうだったんですか」


 村が魔物の大群に襲われた絶望の中、誰かに私の『声』が届いた気がしました。

 『声』に応えてくれたのが勇者様、私の運命の人だったんですね。


「フィオナには幸せになって欲しい。それが村の総意なんだ」

「フィオナさん、ボクとともに人生を歩んでください」

「え? 嫌ですよ」


 村長さんとロバートさんの愕然とする顔。

 今日私は驚かされてばかりでした。

 ささやかな仕返しです。


「そ、村長。どうしましょう?」

「慌てるでないぞロバート君。そうだ! フィオナはレーズン入りのスコーンに目がないから、あれで釣ればいい」

「レーズン入りスコーンをいただけるんですか? それはちょっと考慮しなければいけませんね。では、お友達から……」

「やった! やりましたよ!」

「うむうむ、急いてはならんぞ。じっくりスコーンで餌付けすればいいからな」


 スコーンで餌付けって……魅力的な提案ですけれどもじゅるり。


「ところでこれからロバートさんのことは何とお呼びすればいいのでしょうか? ロバートさん? それともアーサー様?」

「ボクもうロバートで通っちゃってますか? でも王都の法が及ばないなら本名で呼んでもらいたい気も……」

「急いで決めなくてもよいではないか。人生は長い」


 たまには村長さんもいいことを言うじゃないですか。

 きっと楽しい人生になるんだと思います。

 チラチラ私の様子を窺う元勇者様を見て、そう確信できました。

 今後ともよろしくお願いいたしますね、素敵な勇者様。

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