第8話:無双です!

「ハッハア! 飛んで火に入る夏の虫だなァ!」

「ろ、ロバートさん。どうしましょう?」

「落ち着いて」


 村に着き状況を窺おうとした時に、ちょうど退却する盗賊の皆さんと鉢合わせしてしまいました。

 最悪のタイミングです。


 盗賊の一人がねっとりとしたニヤニヤ顔を浮かべ、私達に話しかけてきます。


「あんたら村のもんだな?」

「よく見りゃこの姉ちゃん、相当な上玉だぜェ」

「大丈夫です。フィオナさん、ボクの後ろに隠れてください」

「ひょー、兄ちゃんカッコいいぜェ!」

「立派な武器を構えちゃってよ。その細っこい棒は聖剣何ってんだい?」


 盗賊の皆さんは嘲笑しながらも油断せず、私達から視線を離しません。

 何ということ、村の衆は盗賊を叩き出す寸前だったようです。

 私達が捕らえられて人質になったりしたら、完全に足を引っ張ってしまいます。


 盗賊は皆、恐ろしげな剣やダガーをこちらに向けています。

 対するこっちは、ロバートさんが拾った木切れを持っているだけ。

 こんなの勝ち目ないじゃないですか。

 

 でもロバートさんには緊張の欠片もありませんね。

 意外と頼りになるというか、謎の安心感です。

 そういうところが好……いやいや、それどころじゃありません!


 クマが現れた時もそうでしたが、ロバートさん、度胸はあるんですよね。

 空腹以外に怖いものがないんじゃないでしょうか?


 盗賊の親分らしき男のだみ声が響きます。


「おい村長! この二人を墓場に送りたくなかったら、金と食料を用意するんだなァ」


 対する村長さんの声。


「ロバート君、任せていいか?」


 えっ? 一体何を言ってるの?


「はい、任されました。そちらに逃がさないようにしてください」


 えっ? 一体何を言ってるの(二回目)?

 あっ、盗賊の皆さんがイライラしていますよ。


「痛い目見なきゃわかんねえようだなァ!」

「きゃっ!」


 盗賊の親分らしき人の振り下ろす剣を、ロバートさんが木切れで受けました。

 どうして鋼の剣の一撃を木切れで受けられるんです?

 あれ? 木切れが光ってるように見えますね。

 いろいろ不思議な現象過ぎます。


「ほお? まあまあ堅い木じゃねえか。しかし二度目はねえぜ」

「そうですね」

「うっ……」


 えっ? 盗賊の親分が倒れていくんですけど。

 何が起きたんです?

 驚愕する残りの盗賊の皆さん。


「お、おめえボスに何をしやがった!」

「首の付け根を打ち据えただけですよ」

「ウソ吐け! ぐおっ!」


 二人目も倒れた?

 出来のいい手品を見ているようです。

 トリックが全然わかりません。

 場所が場所だったらおひねりがもらえますよ?

 ロバートさんったら、本当に何をやってるんです?


「おい、囲め! うっ……」


 後ろに回ることさえ許さず、正体不明の技で叩き伏せていくロバートさん。

 次々と転がる盗賊。

 どうなっているんでしょう?

 手順の約束された剣舞を見ているようです。


「よし、捕縛せよ! 注意を怠ってはならんぞ」


 盗賊達が地に伏したタイミングを見計らって、村長さんが命令を下しました。

 盗賊全員を縛り上げ、ようやく笑顔になった村の衆が話しかけてきます。


「よう、新入り。すげえ腕前じゃねえか」

「ありがとうございます」

「本当だよ。ロバートさん、大したもんだ」

「フィオナとお似合いだぜ」

「えっ?」


 どうして私とロバートさんがお似合いなんて話になるんです?

 う、嬉しいですけれども。


「だってあんた達は同棲してるんだろう?」

「ただの同居です。物事の表現は正確にお願いします」


 村長さんが割って入ります。


「まあまあ。ロバート君、今のは魔法かね?」

「そうです。木の枝でもエンチャント魔法で強化すれば、素人の剣を受けるくらい何でもないですから」


 素人の剣って。

 プロの盗賊じゃなかったですか?


「皆の者! 一人の犠牲も出さず、盗賊を全員捕らえることができた。これもロバート君の多大な働きによるものである」

「「「「「「「「うおおおおおおお!」」」」」」」」

「盗賊どもは全て奴隷として売り払う。多額の臨時収入になるから、用途については皆で決定しようではないか。各自考えておくように」

「「「「「「「「うおおおおおおお!」」」」」」」」

「あとはロバート君とフィオナがカルカ村の少子高齢化問題の解決に協力してくれるか、懸念はそこだけである!」

「「「「「「「「うおおおおおおお!」」」」」」」」


 何でそこが懸念なの?

 どうして誰もが私とロバートさんをくっつけようとするの?

 べ、べつに嫌じゃないですけれども!


「ロバート君とフィオナに拍手!」

「「「「「「「「パチパチパチパチ!」」」」」」」」


 ボー然。

 村公認のカップルになってしまいました。

 ロバートさんも嬉しそうじゃないですか……よかった。


 村長さんが言います。


「そこのお似合いの二人。わしの家に来てくれんか?」


 お似合いみたいです。

 頬が緩んじゃいます。


「いえ、村長。この盗賊どもには留守を守る人員が数人はいるはずです。残らず捕らえないと禍根を残しますよ」

「それもそうだな。どうすればいいかね?」

「ボクが捕らえてまいります。道案内に盗賊を一人お借りします。では」


 盗賊一人を抱えてひゅーんと飛んで行くロバートさん。

 えええ? ロバートさん飛行魔法まで使えるんですか?

 それ使ってくれれば、薬草の取れる森や湿地までひとっ飛びだったじゃないですか。


 縛り上げた盗賊四人とともにロバートさんが戻って来たのは一時間後のことでした。

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