第7話:ロバートさんと戦士ロバート様
「王都の話をしてくださいな。田舎にいると華やかな都会のことはなかなか聞けないんですよ」
今日はいい天気。
ロバートさんとともに、薬草採取からの帰り道です。
嬉しいなあ。
普段あまり行かない湿地を訪れたら、薬草図鑑で知ったばかりの新しい有用植物をたくさん採取することができたんです。
それとも嬉しいのは、ロバートさんがしばらく村にいることになったからでしょうか。
優しくて可愛くて、思わぬところで頼もしいロバートさん。
思わず顔がほころんでしまいます。
「うーん、ボクが王都を出たのはかなり前のことなんですよ。周りの村々のことなら……あ、村の名前を覚えてないや」
「もう、ロバートさんったら」
アハハ、安定のロバートさんクオリティ。
眉を八の字にしてすまながることはないんですよ。
いい人なのはわかってますから。
「では、対魔王戦争以降の勇者様一行の御様子は御存知ないですか? 皆様幸せに暮らしていることを信じておりますけれども」
「そうですね。勇者アーサーは、第一王女シャーロット姫と結婚されました。王に男児がおられないことから、将来は姫が女王として君臨し、王配アーサーが睨みを利かせる体制になることが規定路線って言われてましたよ」
勇者様が王女様と結婚されたというのは、私も知っていました。
「その他の方々はどうされたんですか? 勇者様以外のことは田舎村には伝わってこなくて」
「聖女カリンは国教会に戻り、指導的な役割を担っていますよ。各地に祝福を与える聖務と、癒し手の育成に尽力するという話ですね。カリンとアーサーはツーカーですから、今後宮廷と国教会が揉めることはないでしょう」
ふむふむ、とても興味深いお話です。
ロバートさん、王都を離れたのが昔の割にはよく知っていますね。
王都周辺では有名な話なんでしょうか?
「魔道士ハリーホークは魔術ギルドの特別顧問として、魔法や魔道具の研究を積極的に行っていますね。対魔王戦災からの復興補助は戦後一〇年を目処ですから、まだあと二年は行われるはずです。でもその後は、魔術ギルドにかなりの予算が回されるんじゃないかって噂でしたよ。魔道具の普及による便利な世の中が到来するんじゃないでしょうか?」
「素晴らしいことですね。戦士ロバート様は?」
勇者様御一行の四人の内、私が実際に拝見したのは戦士様だけです。
雄々しく逞しい戦士ロバート様はどうされているのでしょうか?
王国軍や騎士団から勧誘があるのでしょうが、豪快にして繊細な戦士様には何となく合わない感じがするので気になります。
あれ? ロバートさん慌て気味ですね。
同じ名前だから意識してるんでしょうか?
「戦士ロバートは……旅に出たんです」
「旅? どうしてでしょう?」
「いや、そこまでは……」
わからないですか。
ふうん? おかしな話ですね。
勇者様御一行の戦士、しかもあれほどの男前であれば、各方面から引く手数多でしょうに。
それを振り切って旅なのでしょうか?
あの戦士様にはそぐわないような?
「魔王戦後ですから、戦士様も考えることがあったんでしょうか?」
各地の再建の有様を見て回るとかならありそうです。
「さあ……」
曖昧に苦笑するロバートさん。
ロバートさんの態度も変ですね。
戦士様と因縁でもあるんでしょうか。
「フィオナさんは戦士ロバートに感謝しているんですか?」
「そりゃあもちろんですよ。でも勇者様御一行四人の内、誰に一番感謝しているかと言われると勇者様ですね」
「そうなんですか? 直接フィオナさんを助けてくれた戦士ロバートや、癒し手として多くの村人の命を救った聖女カリンではなく?」
意外そうですね。
でもそんなことないんですよ。
「カルカ村を救助すると決め、パーティーを率いて来てくれたのは勇者様ですから」
「そうか……」
何となく嬉しそうに見えますね。
ロバートさんは勇者様ファンのようです。
「ん? あれは……」
村の方向から騎馬です。
結構なスピードですが、誰でしょう……あっ、道具屋さんですね。
スピードが落ち、強張った表情の道具屋さんから厳しい声が飛びます。
「フィオナと新入りか! 村に近寄るな!」
「何事ですか?」
「村が盗賊に襲われている!」
「「えっ?」」
噂はありましたが、ついにカルカ村にも盗賊が現われたとは。
「オレは救援を求めに行くところだ。村長が男衆を率いて迎え撃っている。が、先手を許して情勢は厳しい」
「盗賊は何名ほどですか?」
「二〇人くらいだな。時間が惜しい、オレは行く」
蹄の音を響かせて去る道具屋さん。
「ろ、ロバートさん、どうしましょう? 隠れる場所を探しましょうか?」
「いや、幸い村まであと少しです。急いで戻りましょう」
「えっ?」
今村に近寄るなと言われたばかりなんですが。
「盗賊はおそらく反対側、村の東から侵入したんでしょう。撤退する際、アジトの位置をわかりにくくするために、こちら西側に脱出する可能性も高いです。ここ一本道ですから、隠れていても見つかりやすくて危険ですね。また村の衆が不利な場合、ボク達が騒ぎながら乱入することによって援軍が来たと思わせ、退却を促すことができるかもしれません」
「な、なるほど」
さすが元冒険者のロバートさんです。
私では判断のつかないことでした。
「では急ぎますよ」
「はい」
ロバートさんに従って村へ。
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