第2話:同居することになりました

「ここがカルカ村ですよ。見覚えはおありですか?」

「……いえ、ないですね。通ったことくらいはあるはずなんですけど。すいません」


 ロバートさん恐縮してますけど、仕方ないですね。 

 特に目立ったものはない田舎村ですから、あちこち旅してるとは言っても、訪れていないのでしょう。

 古くて立派な建物も、約一〇年前の魔物の襲来の時に全て壊されてしまいましたし。


「バーバラさん、こんにちは」

「おや、フィオナお帰り。今日は早いね」

「ええ、この方が行き倒れていたのを発見しまして」

「何だい。あんたのいい人かと思ったよ」

「もう、バーバラさんったら」


 アハハと笑い合います。

 バーバラさんは宿屋の女将さんです。

 気風も面倒見もいい人で、私も小さい頃からお世話になっています。


「そうだ、キャベ草はあるかい?」

「今取ってきたばかりのものも、干して乾燥させたものもありますよ」

「新鮮なのをちょうだい。スープに混ぜると消化がいいからね」

「はい、毎度あり」


 私は両親の跡を継いで、薬草屋を営んでいます。

 バーバラさんはいいお客さんでもあるのです。


「そっちのあんたは旅人なんだろう? 宿が決まってなきゃ、うちはどうだい?」

「バーバラさんの宿屋は御飯も美味しいですからお勧めですよ」

「いえ、あの……実はボク、文無しでして」

「「は?」」


 恥ずかしそうに頭をポリポリするロバートさん。

 何ということでしょう。

 私ったら、カルカ村の経済に貢献してくれそうにない人を拾ってきてしまいました。


「ど、どうしましょう?」

「どうしましょうったって、村長に相談してみなよ。追い出すなら追い出すだろうし、住まわせるなら部屋と仕事くらい手配するだろうさ」

「そ、そうですね」

 

 お金は暮らしを成り立たせる非常に大事なものです。

 だってお金がなければ何にも買えないじゃないですか。

 何故ロバートさんはお金を持っていないのに、ヘラヘラしていられるのでしょう?

 見かけより図太い人のようです。

 侮れません。


「村長さんの家にまいりましょう」


          ◇


 どうしてこうなったんでしょう?

 家への帰り道でペコペコ頭を下げるロバートさん。


「申し訳ないです……」

「いえ、ロバートさんのせいじゃありませんから」


 お腹が減っているところにつけこまれました。

 だってとっても美味しいレーズン入りのスコーンだったんですもの。


 村長さん曰く。


「悪い男にはとても見えないね。これでも人を見る目には自信があるんだ」

「捨て犬でも捨て猫でも、拾った者が管理するのがルールだよ」

「幸いフィオナの家には空き部屋が多いだろう?」

「手に余るならば、わしのところへもう一度相談に来なさい」

「気に入ったかい? 残ったスコーンはあげよう。二人で食べるといい」

「村の少子高齢化問題を少しでも……いやいや、何でもない」


 あの手この手で説得してくる村長さん。

 結局ロバートさんを押し付けられてしまいました。

 ついスコーンに目がくらんで……最後の少子高齢化問題って何ですか?

 ろろろロバートさんと結婚して、こここ子供を産めということですか?


 チラッとロバートさんの少年っぽさを残す横顔を見ます。

 うん、悪人ではないと思います。

 私は村長さんのように、自分の見る目に自信があるわけじゃありません。

 でも悪い人だったら、あんなところで野垂れ死にしそうにならないと思うわ。


「ほんとに、ボク何にもできないですけれども、一生懸命働きますから」

「ええ、期待していますよ」


 少し嬉しそうなロバートさん。

 薄い色のクセ毛とくりくりした青い目はとても可愛らしいなあ。

 好きなタイプの顔ですが……いけませんいけません。

 殿方に必要なのは顔の造作の良し悪しではありません。

 甲斐性です。


 自分で何にもできないと言う、この可愛い生き物の能力はいかに?

 謙遜だといいなあ。

 こういう希望的観測は悪い方に外れると決まっているのだけれども。


「ロバートさんに必要なものを買っていきましょう。何をお持ちでないですか?」

「……生活に要りそうなものは何も持ってないというか。保存食を食べ尽くした後は道に生えている草で腹を満たしていたというか」

「あー」


 鍋や火起こしの道具すら持ってないとは。

 驚きです、水はどうしてたんですか?

 生水飲んでたんですか?

 よく生きてますね……いえ、死にそうでしたか。


 ため息を吐きたくなる気持ちを抑えつつお店へ。


          ◇


「薬用植物の採取をしに、森へまいります」

「はい!」


 翌朝の食事時、ロバートさんに宣言します。

 いい返事ですね。

 従順な子犬みたい。

 ぶんぶん振られている尻尾が目に見えるようです。


「我が家の生業は薬草屋です。数日に一度、天気のいい日に薬用効果のある植物を見つけて採取し、売るのがお仕事です。また庭の薬草畑の管理も重要です」

「はい!」


 実に素直で、気持ちがいいです。


「昨日の採取が中途半端でしたので、今日も採取の日に充てます。よろしいですか?」

「はい。薬草屋でしたら、ボクもお役に立てるかもしれません!」

「そうなのですか?」


 とても意外です。

 自信の根拠は何でしょう?


「旅してる最中に、食べられる草はほぼ把握しましたから!」

「あー」


 ダメなやつでした。

 それにしても、食べられる草はほぼ把握したってどういうこと?

 食べられない草も食べてみたってこと?

 見かけによらず優秀な消化器官をお持ちのようです。

 侮れませんね。


「では行きましょう」


 森に向けて出発です。

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