行き倒れを拾ったら運命の人でした
uribou
第1話:可愛らしい行き倒れを拾いました
勇者アーサーが魔王を撃ち倒し、四〇年以上にわたる対魔王戦争は終わりを告げた。
魔王の滅亡とともに魔物もまた出現しなくなり、人々は歓喜の声を上げた。
そして八年。
◇
「どうしましょう……」
途方にくれるとはまさにこのこと。
近所の森に薬草採取に来たら、男の人が落ちているのです。
馬車にひき潰されたカエルのようにうつ伏せで。
背は私より少し高いくらいでしょうか?
薄汚れた格好で、うちの村の人ではなさそう。
荷物が少ないようですが、多分行き倒れの旅人でしょう。
声をかけるべきだとは思います。
でも一六歳の乙女である私フィオナにとって、どういう人だかもわからない男性に声をかけることは、大変にハードルが高いです。
最近、近隣の村に盗賊が出たという話ですし……。
村に戻って誰かに助けを求めるのが正解なのでしょう。
往復二時間かかる道のりですと、この方の命が危ないかもしれないという問題を除いては。
ええい、仕方ありません。
関わりたくないのは山々ですが、かつて勇者様に助けられた私としては、彼を見捨てるのはモットーに反するのです。
「もうし、どうされましたか?」
勇気を出して話しかけてみましたが、返事がありません。
しかばねではないようですが……。
「大丈夫ですか? 聞こえますか?」
身体を揺すってみる。
あ、反応がありました。
「ひっ!」
いきなりガッと足首を掴まれました。
ああ、やはり悪い人だったのか。
自分の迂闊さを後悔していると……。
「な、何か食べるものを……」
「……へ?」
ただの腹ペコさんでした。
――――――――――一〇分後。
「本当にありがとうございました。フィオナさん、あなたは命の恩人です」
「はあ」
私のお弁当を綺麗に平らげた腹ペコさんが、平伏しながら感謝の言葉を口にしています。
「ボクにできることなら何でもいたします! で、でも難しいことはできないんですけど」
「はあ」
妙なものを拾ってしまいました。
お弁当もなくなってしまいましたし、一旦村に帰りたいですね。
「あの、顔を上げていただけますか?」
「はい」
あら、意外と可愛らしい顔をお持ちじゃないですか。
ちょっとクセ毛の金髪とウルウルした青い瞳が、庇護を求める子犬のようです。
歳は私と同じくらいか、少し上でしょうか?
「腹ペコさんは、どこかに行く御予定でしたか?」
「腹ペコさんって……ボクのことはロバートと呼んでいただけると」
「ロバートさん。あら、勇者様御一行の戦士様と同じ名前ですね」
「え? ええ、まあ……」
急に横向いたりなんかして、どうして挙動不審なんでしょう。
名前に引っかかりが?
ロバートなんてよくある名前だと思いますけど。
変な人ですね。
かつて私の住むカルカ村が魔物に襲われ危機に瀕した際、勇者様御一行がギリギリで現れ、救ってくださいました。
その時偉丈夫の戦士ロバート様が、不敵であるべき顔を曇らせ私に声をかけてくださったのです。
間に合わなくてすまん、と。
確かに両親が魔物に襲われている時に勇者様御一行はまだ到着しておらず、私は親を失いました。
しかし勇者様達だって必死で駆けつけてくださったのです。
何の文句が言えましょう。
それでも戦士ロバート様は頭を下げてくださいました。
直接話したのは戦士様だけですが、おそらく勇者様も聖女様も魔道士様も同じ気持ちだったのでしょう。
勇者様御一行は素晴らしい、尊敬に値する方々なのです。
対するに腹ペコロバートさんは……オドオドしていらっしゃいます。
自信と力に溢れていた大柄の戦士ロバート様とは随分な違いですね。
でも悪い人ではなさそう。
「御予定がなければ、私の住んでる村へいらしてはいかがですか? ここから他の村へ行こうと思うと、歩いて半日はかかりますし」
「えっ、そうなんですか? 御一緒させてください。お願いします」
「はい、こちらですよ」
そんなに必死にならなくても、今から見捨てたりはしませんよ。
◇
「まあ、そうなんですか?」
「ええ。もう魔王の存在していた時代とは違いますからね。王都周辺では冒険者なんていなくなってしまいましたよ」
「領兵や騎士団の手の届かない地方では、猛獣や盗賊も脅威なのですけれどもねえ」
道々腹ペコロバートさんと喋りながら進みます。
意外なことに、ロバートさんはかなり各地の事情に通じているみたい。
話が面白いです。
「ロバートさんは吟遊詩人なんですか?」
「いえ、フィオナさんは何故そうお思いです?」
「高くて綺麗なお声ですし、いろんなところを旅していらっしゃるようですし」
口には出しませんが、身体が貧弱で傭兵には見えませんし、商人にしては金目のものをお持ちでないようですし。
「恥ずかしながら、ボクは元冒険者のフリーターなんです」
「フリーター?」
正業に就いていないということでしょうか?
旅人なら当然そうでしょうが。
ロバートさんが俯いたまま言います。
「ある村に辿り着きます。雇ってもらってクビになってということを繰り返すとあら不思議、どこのお店も雇ってくれなくなります。そうなると次の村に行かざるを得なくなるんですよね……。そうしたことを続けていると、自然あちこちを旅することになるんですよ」
「あはは。ロバートさんったら、ジョークがお上手ですね」
「ジョークだったらどんなによかったことか……」
えっ、何ですか? 冗談ですよね?
どうして遠い目をなさってるんですか?
一抹の不安を覚えながら、私の住むカルカ村に到着です。
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