4 空虚。
「て、てめえの、枠を、ぶち壊した、ですって? ふぅ……ふぅ……」
〝ああそうさ。黒岩ァ、お前さっき【レベル】どんぐらい上がった? 一コか二コってトコじゃねえのか? レベルは高くなればなるだけ、上がりづれえようにできてる。だがなぁ、【魔物】は別だぜ? 【
黒岩の前にいる、山本は
黒岩は熱気を帯びているはずの身体が震えるのを自覚しながらも、山本の声に注目していた。これは武者震いに違いない——そう思いながら。
しかし、今の黒岩は、
山本が、手に持つ漆黒の【
〝このぼっこで創れる【アンデット】はな? 材料にする
「ふー、ふー、ベラベラベラベラ。新しい
〝ああ嬉しいねぇ? こういう刺激がねえと、人生なんてもんはつまらねえ。喜びのねえ奴は、死んでんのと一緒だぜ? ポジティブなんだよ、俺は。くくくく〟
「ふーふー、ふぅふぅふぅ、ふしゅぅぅぅぅ……。そう、ですかい。だが今さっき、アンタはそのせいで俺に一度殺されたようなもんでしょう? あんまり、俺を、舐めてんじゃねえよ……!!」
震える黒岩の、腕の振動が、鎖を鳴らす。震えの質が変わった。恐怖をまた、怒りが、
〝おっと! 言っとくが、お前のターンはもう終わりだぜ? ここからはずっと、俺のターンだ。ひひひ〟
「ふー……ふー……ガキどもがやる、ゲームみてえに、言いやがって」
〝くくくくくく。良い事言うじゃねえか。ゲームなんだよ、この世は。今も、いや、昔から。俺にとっちゃあ、っつー話だがねぇ? ——【
「——!?」
突如、黒岩に、真横から、大きな力が加わる。黒岩は両脚を突っ張るように力を入れて踏ん張ろうとするが、その足場は先ほど自分で壊した建物の
「ぐ……!?」
立ち上がる黒岩の露出している上半身の肌は破れ、皮膚がめくり上がり、黄色い脂肪の表面に、赤黒い血が
〝お天道様からしてみれば、の話だが、日本にいる俺たちは秒速380メートルぐれえの速さで動いてるそうだ。ジャンボジェット機よりも速え。一瞬だけでも、かなり効くだろう? クックックックッ〟
黒岩の身体からは、蒸気ではなく、煙、が昇っていた。
黒岩は動いていたのではなく、停止していたのである。この世界で黒岩、ただ一人が。
黒岩の身体は徐々に再生していた。
だが————。
〝やっぱ生き物は遅えな。くくく、まだまだ『逝く』ぜ? ——【
山本の、いや、骸骨の口が大きく開き、前方の空間が歪む。
その歪みは一瞬で瓦礫まで降り、その瞬間、黒く光った。瓦礫がぼろぼろと崩れ始め、それが広がり、黒岩に、
黒岩の皮膚は完全に復活していないものの、内部の骨や筋肉は運動機能を取り戻していた。黒岩は跳ぶ。
その今いた足場も粉々になり、風に飛ばされる。代わりに、黒い根のようなものがその中を
黒岩は上昇が落下に切り替わる前に、大きな黒球を地面に向かって放った。更に昇る。
鎖で小さな黒球を手繰り寄せ、それを蹴った。昇る。
地面に到達した黒球は、瓦礫ほど早くはないにしろ、崩壊を始める。黒岩はそれが砕け散る前に自身の武器を消失させ、また現わし、空中に居続ける為に同じ事を繰り返した。山本を攻撃する余裕はなく、落ちないことに精一杯だ。
〝忙しそうじゃねえか、
山本は両肩の
黒岩は下を見た。
瓦礫の山は、アスファルトとコンクリートと鉄でできた砂漠と化し、今も黒い根が絶えず、動いている。その中央から、黒い幹が伸びていた。
それはどんどんと成長し、山本のいる高さに並ぶと、その
「うぉるぁあああああああッッ」
黒岩は上空から山本に、黒球を放つ。が、山本はそれを、ひらりと
〝せっかち、だな。これからが良いとこなのによぉ〟
咲いた黒い大きな花は、ガラスのように砕け散り、その幹も、根も、全てが砕け、消滅する。
そして、黒と白が混ざり合う砂漠に、草が、枝が、花が広がり、それらに月明かりが当たり、緑を、見せていた。
〝世の中全部、コレみてえなもんだ。失われては何処かで誰かのもんになり、壊れては何処かでまた、別のもんが産まれる。お前さんが嫌んなる気持ちもわかるぜ? 終わりがねえからな〟
「……!」
〝死んでも終わりがねえんなら、生き続けるしかねえよなぁ。篤、選べ。今までどおり俺の弟分として生き続けるか、それとも、ゾンビになって、死に続けるか〟
「ふー、ふっ、ふっ、どちらも、御免です。俺は、アンタの居ねえとこに、行きてえんですッッ!!」
今の黒岩は、
黒岩が下に伸びた鎖を引くと、大きな黒球も勢いよく、山本の足元に迫る。
反動で黒岩の身体が、同じスピードで地面へ向かう。
更に、上の鎖も引いた。
小さな黒球が山本の頭部に迫る。
反動で黒岩の身体が上方へ戻る。
〝【
黒球たちが、山本の近くで止まった。
「なっ!?」
空中で踏ん張りが効かないとはいえ、渾身の力を込めた攻撃だ。なのに、黒色すらも見えない。
〝【ステータス】ってのは、強えほうが優先されるらしい。元々の俺のほうが【
山本の口調に笑みが戻っていた。
大きな黒球は下に落ち、小さな黒球の鎖は、山本につかまれている。
黒岩が鎖に力を込めた。
二人が近づく。
〝————【
二人を暗黒のドームが包んだ。
外からは、ただ二人が浮いているように見える。しかし、内からは、暗黒、だ。
それが反転する。
「お、おお、おおおおおおお……!」
黒岩の肌が、老人のように、萎れていく。
黒球が、鎖が、ぼろぼろに、粉々に、欠けていく。
黒岩の皮膚がふけのように剥がれ、粉になり、舞う。外からは見えない。今は、外から黒い巨大な球が、二人を呑んでいるからだ。中に居る二人だけが、全てを、見渡せる。
「お、おおお……」
剥がれた皮膚の下から脂肪が、筋肉が、
「……」
声を出すのに必要な器官が失われ、黒岩は、無言になった。
その骨も失われてゆき、その頃には脳も消失され、残るのは黒岩の
それを、山本は骨だけとなった自身の
闇のドームが晴れ、辺りが元の、
「ふぅ、命ってのは、あっけねえもんだ。篤みてぇな奴でも、たぶん、誰でも、こんなもんなんだろうなぁ」
人の表情に戻った山本に浮かぶ表情は、明らかに、淋しがっていた。
「おい、お前ら、ちゃんと集めたんだろうな?」
山本に声をかけられ、二体の【レイス】と、一人の【屍人】が姿を顕す。
〝当然ダ〟
佐藤をぶら下げた
二体のレイスが山本へ手を伸ばす。
その掌の中には、大量の
「さて、篤。お前さんは特別に、俺と同じ、上級のアンデットにしてやるよ。くくく——」
山本の口元は笑みを浮かべるが、その目は相変わらずに、淋しさを残している。
「そうだなぁ、生意気な口が利けるように、意識も残してやんなきゃなぁ。今までみたいによ、それでも——」
「偽もんの命には、違えねえがな」
ここに新たに、新たな、山本の
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