5 下心。

 オイラはライオウ。

【プレイヤー】大西おおにし勇吾ゆうごの【ナビゲーター】だぜい。


 勇吾は倒れてる。今オイラの目の前にいる【レッサーウルフ】に【転生】した、このわけわかんねーヤロウのせいで。


「さてと、そろそろ勇吾くんを起こすとしますかね?」


 コイツはひとごとを言っている。正確には独り言じゃなくて、コイツのナビゲーターに話しかけているみてーだ。


 なんでわざわざ声に出してんだー? ナビとの会話なんて、心の中でささやけば良いだけなのによー。


 オイラにはコイツのナビは見えねー。

 コイツにもオイラは見えねー。


 オイラは今コイツに、「ガンつけて」いる。


 何故かってー? 気に入らねーからさー。だってオイラの勇吾を締め落としやがったんだからよー。


 このクソ野郎。


「ほら勇吾くん? 朝だよ? 起きるんだ」


 そう言ってコイツは勇吾のほおる。「見えない手」で。


 今は昼だっつーの。ふざけやがってよー。


 コイツの【スキル】にオイラは見当がついている。たぶん【見えざる手ヒドゥンハンド】ってヤツだ。げんされた「誰にもえない手」で、色んなことができるスキル。


 つーかよー。コイツの頭、どうなってんだー? ヒトが四本足で歩くこと自体、てきおうするのに時間がかかるとオイラは思うんだけどよー? コイツの場合、それに加えて手も使ってやがんだ。六本足なんて、一日やそこらで、使いこなせるもんなのかい?


「ん? う、んん……」


 なんて声出しやがんだよー。


 勇吾はやっと目を覚ました。


「ん、うわっ! そ、そうだ! おい、ライオウ! コイツ、俺になんかしてなかったか!?」

「何にもしてねーぜい? ただお前さんのほっぺをペチペチしてただけ。つーかよー、『声』に出ちまってるぜい?」


(あ、いけねえ)


 まあビックリしたんだろーから、しょーがねーけどよー。


「ふうん? キミのナビの名前、『ライオウ』って言うんだね? 男の子かな? 女の子かな?」


 ホラ、コイツに名前知られちゃったじゃねーか。クソが。


「たぶん、男だ」


 お前さんも教えてんじゃねーよー。


「なるほどね。よろしく、ライオウくん」


 けっ。誰がよろしくしてやるもんかよー。つーかテメーにオイラ見えねーだろーが。このボケ。


「てかよー勇吾ぉ? 『第二ラウンド』なんて考えんじゃねーぜい? 認めたくねーが、コイツ、お前さんよりも強えー。コイツがナビに言ってたことをよー。オイラ、聞いてたんだぜい? コイツ、あんまり『』。わかるかい? 言ってる意味がよー?」

(ああ、本気じゃなかったってことだよな)

「そーだ。リベンジするならもっと強くなってからだぜい?」

(リベンジはすすめんのかよ?)

「あったりまえだろー? オイラコイツ、気に入らねーかんなー」

(わかったよ)


 オイラの話を聞いた時、勇吾は別に、悔しそーではなかった。


 たぶん勇吾もよー。わかってんだろーなー。今の自分じゃ勝てねーってよー。戦いってのは、自分を満たすためにやるもんじゃねー。のこるためにやるもんだ。

 

「それでだ、勇吾くん。本題に入りたいんだけど……」


 オイラは少し、黙っていよーと思う。コイツのいう「本題」が気になるからな。

 

「その前に、ちょっと良いか? なぜ俺の名前を知ってんだ? ストーカーなのか?」

「ふふふ、ストーカーか。まあ間違いではないよ。キミの職場からここまで、けてたんだからね」

「あ、そういや、事務所の中のこと知ってたみてーだな。どこまで知っている? というか、どうやって盗み聞きしたんだ?」

「俺は狼のモンスターだ。とても耳が良いんだよ」

「犬じゃねえのか?」

「犬ではない」


 ふん。がおだからって間抜けヅラには変わりねーぜぃ? 


「で? どっからどこまで聴いてたんだよ?」

「山本くんがアソコに入ったところから、そのあとゼンブかな? つまり、ほぼ全て」

「アニキを『山本くん』って……あんた歳いくつだ?」

「俺かい? 二十六のイケメンだよ? ついでに名乗らせてもらおう。俺の名前は『かみシン』。良い名前だろう?」

「だいぶ年下じゃねーか。いや、あの人の歳、俺も知らねえけど」

「山本くんは俺の『アニキ』ではないからね。それに歳なんてどうでも良いじゃないか」

「ま、それもそうだな。んで、『三神さん』。アソコでの話を全部聞いたあんたはいったい、何をしようってんだ? たしか、『手助け』、とかいってたな?」

「そうさ。俺には誰がはやくんと、見当がついてる。キミはめられようとしてるんだよ。あ、キミたちの言葉だと『型に嵌める』とか言うんだっけ?」

「俺はそんな専門用語は知らねえよ。それより、俺が嵌められるってどういうことだ?」

「まずだね。『黒岩くん』が隼人くんに、カネを盗ませたんだよ」

「社長が? どうしてそうなる?」

「俺の鼻は『うそはっけん』なんだよね。だから初めに、黒岩くんが嘘をついてることがわかった」

「嘘? なんでだ?」

「そう、何故? 俺もそう思った。だからキミたちのお話を聞きながら、『ぎゃくさん』で考えたのさ。『どう考えれば話に辻褄つじつまが合うんだろう』的にね」

「いやいや、おくそくっていうか、こじつけだろ。それ」

「フツーはね。でも、俺の鼻によって、『黒岩くんの嘘』は確定している。もちろん俺にしかわからないことだから、キミには信じられないことだろう」

「ああ」

「ふふ、正直だね。でも、それを踏まえて、俺の話の続きを聞いてくれるかい? ああ、一度、ライオウくんと相談してみると良い」


(どうする? ライオウ)


 三神に言われて勇吾は、オイラと勇吾にしかわからない声でささやく。


「オイラは信じてやっても良いと思うぜい? コイツのことは嫌えーだけどよー? コイツがわざわざお前さんをたずねてきた時点で、コイツが嘘をつくメリットはあんまりねーと思うしなー」

(なるほどな)

「ただし、だぜい?」

(ただし?)

「コイツがお前さんを『手助け』したいっつー、その理由はなんだろーなー? コイツのしたごころ、それを聞くまでは、話にのっちゃーダメなんだぜい?」

(なるほどな。サンキュー、ライオウ)


 勇吾はいつも、れい正しい。


 だからオイラが守ってやんねーとよー。まったく、世話がやけるぜい。


「あんたの話を聞こう。ただし、あんたの下心を聞かせてくれねーか?」


 ド直球。それが勇吾の良いところだぜい。


「下心。ふふ、どう話せば良いか、考えてたところだ。手間が省けたよ。もし、お金を取り戻せたらさ。少しだけ、分けてくれないかな? ホラ俺、この見た目だろ? 無職なんだよね」


 コイツの要求もシンプル過ぎて、ひょう抜けだぜい。


「無職……ぷっ! あ、いや、悪い。たしかになあ。あんた、犬だもんなぁ」

「犬ではない」

「でもよ? アレは社長が山本のアニキに渡すはずだったカネだぜ? あんたにやるってわけにはいかないんじゃねえかな」

「いや、山本くんが言ってたじゃない? 『カネはあってもなくても良い』ってね。だからさ。『隼人くんが少しだけお金を使い込んでいた』としても、問題はないわけだろう?」


「あんた、俺によ。嘘つけって言ってんのか? アニキに対して」

「うん」


「ふふふ、俺が、あの山本のアニキに嘘。くく、わかったよ。話の続きを聞かせてくれ。ついでに、もな?」

「ああもちろん。俺の話をむのは、続きを全部聞いてくれた後で良い」


 おいおい、勇吾のやつ、わかってんのかよー? 自分が信頼してた黒岩に「裏切られていたかも」しれねーつーのに、なんて楽しそうなツラしてやがんだ。


 ったくよー。けちまうだろーが。くそ。




 第三話 EVEN IF YOU WANT AND EVEN WHEN I WANT.  終わり。


 


 

 

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