5「わかりません」
「クソッ。帰れねえじゃねえか」
ここの本来の社長は
社長は毎日ここに顔を出すが、そもそもこの会社に
社長は、どっかから仕事を見つけて来て、俺らに
【
スキルが広まるのも時間の問題。元々、情報が広まりやすい世の中だし、俺たち【プレイヤー】、その全員が最初から持つ【
世の中から電話が、消えるかもしれない。
俺らの仕事?
佐藤さんは、カネの計算と、この会社の顔役。
俺の仕事は、契約先への連絡とクレーム処理だ。【念話】のせいで、けっこう忙しい。今は通知をOFFにしている。
表向きは
裏ではライバルに、仕事と、取引先と、契約者たちをとられないように、「物理的な根回し」をしている。そんな汚れ仕事をするのは、「裏の人材」だ。そいつらとの連絡も、俺の仕事の一つ。
そして俺のダチ、
俺の名前は
でも、実際のところは、ただの「ヤクザの使いっ走り」だ。
「おい、加藤。その隼人ってヤツと連絡はつくのか?」
「いえ、勇吾の話だと、連絡はつかないそうです。何故か【念話】も『登録』してないみたいで」
「ああ、たしか、このニイちゃんは電話番、とか言ってたか。この念話ってスキルも便利なようで不便だよな?」
「はい。直接会ってる時でないと、登録できませんので。今思えば、俺があいつに登録の話を持ちかけるべきでした。申し訳ありません」
「いや、良い。自分の落ち度を認められるヤツ、俺は好きだぜ? さっきは、佐藤と比べちまって悪かったな」
「あ、ありがとうございます」
俺も、佐藤さんと加藤さんは好きだ。社長もヤクザではあるが、俺を拾ってくれた、
今のこの状況が、マジでつらい。
「おいニイちゃん、じゃなかった。勇吾『くん』? なんで連絡役のお前さんが、連絡つかねえのかな? しかも、自分のツレだろ?」
どう答えるべきか。
何故かカラダの震えは止まっている。先ほどまで恐ろしかったこの人が、今ではそれほど怖くない。
なんでだろう?
山本のアニキ。
俺たちは社長以外、ヤクザではない。だが、社長の「
「……すいません。隼人はスマホの電源を切ってるみたいです。アイツはたぶん、金庫のカネがなくなったことも知ってるし、俺たちが騒ぐことも予想できる。それに今は、電話を使わずに連絡する手段もある。加藤さんではなく、俺が『念話を登録』するのが普通です。本当にすいませんでした」
「ほお? 登録しなかった『言い訳』はしねえのかい? それに隼人はオトモダチだろ?」
「ダチだから登録しませんでした。アイツの周りのヤツらは、進んでアイツの為に働きますが、俺は違う。アイツとは対等でいたい。だから、仕事を回すトキ以外はこちらから連絡もしないし、登録も、アイツから言われない限りはするつもり、ありませんでした」
「こだわり、ってヤツかい?」
「はい、だから言い訳なんかするつもりはないです」
「くく。いや、その隼人もだけどな。お前さんもなかなか面白い。なあ、『勇吾』。何故その対等なダチを『今は』、
「はい。先ほどは俺が殴られて済む話でしたので。でも今は違います。俺が庇えば、社長たちに迷惑がかかります」
「くく、なあおい。矛盾してるな? 別に俺が今ここにいなくても、お前が隼人を庇ったなら、コイツらに迷惑がかかることは変わらねえんだぜ? つまり、状況に違いはない。理解してるかい?」
「わかりません。俺、
「馬鹿、か。たしかにねえ。くく。本当に馬鹿だ。自分の
「はい。だから、隼人のヤツをとっちめて、カネも取り戻し、自分で潔白を証明します。俺は馬鹿だから、それ以外に方法が見つかりません」
「じゃあよ? もし犯人が隼人じゃなかった場合、それか、カネが戻らなかった場合。お前はどうする?」
「わかりません」
「くくっ、くっくっくっ、ふふ、はははははっ! 俺を前にして『わかりません』ってか! あっはっはっ! よしっ。ふふ、わかった。カネはあってもなくても良い。ただし、隼人だけはここに連れて来い」
「カネ、なくても良いんですか?」
「あるに越したことはねえ。でも、ないならないで、『お前をもらう』。お前、この件が終わったら、俺について来い。一から十までこの世界のこと、教えてやるよ」
「……!」
なんだって?
俺はヤクザの会社で働いてはいるが、ヤクザになろうと思ったことはない。
「返事は?」
「は、はい!」
「ふふ、良いね。さっきまではあんなにビビってたのによ?
「ありがとう、ございます」
この状況だと、答えはYESしかない。ただ、不思議なのは、それほど抵抗もない。抵抗したところで無駄なのは、たしかだとは思うが——。
「なあなあ、勇吾ぉ?」
俺の【ナビ】が、俺に話しかけてきた。夏祭り会場の入り口付近とかで売られている、ヒーローの仮面みたいな顔をしている——ライダー的な。
「ちびっ子ヒーロー」、そんな感じの見た目の俺のナビ。名前はライオウ。
まだ小学校にも上がってない頃に観た、特撮ヒーローにそっくりなデザインだ。
あん? なんだよ?
「もう喋っていいかー? オイラ、なかなか退屈してたんだぜい?」
あ、ああ。悪かったな。「
「勇吾ぉ。気づいてないようだから言うけどよー。お前のその
スキルのせい? それよりも蛮勇って、えらい言われようだな?
「蛮勇は蛮勇だろー。まぁ選択肢も他になかったから、しょーがねーけどよー」
そうだろ? でも蛮勇って言葉、認めるよ。だって俺、馬鹿だからな。
「それより良いのかー? 早く行かないとよー。山本の
うわ、そうだった! ていうかお前が話しかけたからだろ?
「だってよー。喋って良いって言ったじゃんかよー」
まあ、そうだけどよ? あ、いけねえ! くそ、そろそろ行くぜ!
「どうした勇吾、固まって。褒められたのがそんなに嬉しかったのか?」
山本のアニキが、不思議そうな顔をして、俺に言う。
「いえ。あ、いや嬉しいです。でも固まってたのは、ナビが話しかけて来たからで」
俺は正直に答えた。
「なるほどな。俺のナビも、なかなかカワイイ奴だぜ? 俺だけにしか見せられねえのが残念だ」
「……俺は、自分以外には見られたくないですね——」「それはオイラに失礼だろー?」——うるせえ!
「でも時間は有限だ。早いとこ行ってくんねえかな? 俺って実は、結構せっかちでよ」
「ええ。俺も時間は惜しいです。それでは行って参ります」
「『参ります』。ふふ、かてえ言葉だな? まあ良い。健闘を祈る。なんつって」
なんだこの人、冗談とか言うのか?「早く行こーぜい?」わかってるよ。
俺は事務所のドアを開けて、廊下を通り、そして階段を降りて行った。
第二話 VILLAN OR HEEL? OR THE EVIL? 終わり。
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