2 ハッシュタグ。
「いやー。たった
遠くから、そして近くから、カラスの鳴き声や羽ばたく音が聞こえる。世界の西側がまだ薄暗く、東側が明るい。アスファルトの割れ目から優しい黄色を主張する、タンポポの足下——ギザギザして少しだけ濡れている緑色の葉っぱの先で、小さな
そんな
「そりゃそうだよ。今までになかったものが一気に、自分たちの一部になったんだから」
スマートフォンに映る文字たちをシンは、【
「お仕事に役立つスキル!」
「生活の中で今一番欲しいスキル」
「効率の良いアイテムポケットの使い方」
「#ステータス#スキル#拡散希望」
画面の中は、この世界に生きる人々の興味でいっぱいだ。
「お?
「まあ、そのスキルほど
「そんなことないさ。俺もまだまだ研究中」
シンは今も研究中だ。
公園にあるブランコの周りの
「それで? その研究の成果は
「うん。今【マニュアルモード】を試してるんだけど、コレ、かなり面白い。俺は『手の部分』を力点
「うんうん。まず?」
「うん。まず、点B。コレを空間に固定すると、俺の体も固定される。点Bは肉体からは離せないみたいだ。んで、カラダの
「ハイハイ、それで?」
マスコは
「で、点Aと俺の体重。その力のモーメントの
「ハイハイ。ふわぁ……」
「で、更にだ。その力は俺の【力】のステータスが反映されているワケなんだけど、なんとだよ? 点Aこと、この『スキルの手』の指先や手の平自体から、その形状と関係なしに力を加え『続ける』ことができるんだ! つまり——」
「ハイ、ストップ!
ついにマスコは、シンの言葉を
「ああゴメン。わかりやすく見せるとだね?」
シンは柵を掴んだ「その手」を離し、地面にすたっと着地する。そして、人の手の平に収まるような小さな石を、その見えない手で掴んだ。
石が
「何するの?」
「今、石に力を加えているんだよ。でだ。コレをパッと離す。するとだね……」
石が、勢いよく飛んでいき、公園のトイレの壁にぶつかって、その下に落ちた。砕けてポロポロと。
壁には銃の
「ま『デコピン』みたいなもんだね。投げたりする必要もなく、飛び道具が使える」
「あーあ、また『器物破損』」
「うげ」
「危ないところだったよね」
マスコは「昨日のこと」を思い出して、言う。
「ああ、たしかに
「ハイハイ、ストーップ。長い
「マスコちゃん。コレは蘊蓄話ではなくて——」
「確かにそれもやばかったけど、あたしが言ってるのはお金の話。あのカッコいいお兄さんが来なかったらあんた、どうしてたのよ?」
カッコいいお兄さん。
シンとマスコは、昨日の出来事を
——その時シンは、悠月との戦いで荒れた駐車場。穴の空いた看板。自分が折った旗の棒。その修理代や工事費用をどうするか、考えあぐねていた。
「シン、もう良いよ。あとは店員さんと警察の人達に任せましょ? 『カッコ悪い』とは言ったけど、もうシンは十分に『良いこと』をしたとあたしは思う。店員さんを救った。この子にも
(そうは言ってもだね、マスコちゃん。悠月くんの家にはお金がないときている。それで
「それは悠月くん次第でしょ? 大丈夫よ。この子みたいな家庭なんていっぱいある。でも悪い道にいく人は、『ほんの一握り』。コレはあんたの知識の中にあった情報だよ?」
二人が、他の誰にも聞こえない会話をしている間に、店員が悠月に説教をしている。
「
この場を収めたのはこの店員ではなく、シンだ。だが店員は悠月に、自分がこの場を収めたかのように話す。
「うわ、この店員さん。めちゃくちゃ偉そうに悠月くんに説教してる。しかも、かなりまともなコト言ってるし」
(まあ被害者は彼だし、それくらい言う権利はあるよ。そもそも勝手に介入した俺たちがおかしい)
「ねえ? もう行こ? なんかキブン悪くなってきた。シンは最初から関係ない。もうそう考えましょ?」
(うーん。でもさあ……)
「あーもう! さっきはカッコつけてたくせに、こういう時は
マスコに
「ああ、良かった。警察の人はまだ来ていないみたいですね?」
シン、マスコ、店員、そして悠月は、声のした方向を
そこには、涼しげな
「わお! 超イケメン!」
(いやいや、ワザと過ぎるでしょ。この
「店員さん、盗まれた商品はその子のお友達が持っていました。ほら」
その青色の好青年は、三つあるボタンの内の上二つをとめてあるスーツの胸元に手を差し入れて、中からパンやらお菓子やらを取り出した。
「はは、スキルですよスキル。【アイテムポケット】っていうんです。便利ですよ?」
「そのスキルなら俺も持ってるよ。ホラ」
シンも負けじとパンツから煙草とライターと財布、その他もろもろを次々に取り出した。
「ナニ張り合ってるのよ?」
「ああ、アナタも持ってたんですね? アナタがその子に行くと思ったから、私も『彼』を追えたんです。それと、その『テレキネシス』のようなスキルの説明は不要ですよ?」
「それは助かる。あまり手の内を明かしたくないのでね。それと俺も、キミが走るのを見たから、『彼』を追うのをやめたんだ」
青年の人差し指は、歩道にいる「彼」の方に向けて
「はは。キミ、悠月くんっていうんだね。キミのお友達、『帰っていい』って言ったのについて来たんだ。『友達をほっとけない』って言ってね? 良いお友達じゃないか」
青年が
「あのう? 商品が戻ってきたことは
店員が青年に言う。
「ははは! 大丈夫ですよ! この二人の友情に免じて、私が費用を払いましょう! 私、こういう者です。ココに請求をかけて下さい」
青年は胸ポケットから
「ん? ‘
店員は
「はは、英語なのに読めるんですね? 色々です。名前が長いので’
青年はシンに向けてウインクする。
「いやいや、一安心ってキミ。そんな
このシンの言葉を聞いた悠月は「え?」と声を漏らした。
「……ちょっとシン? あんた、さっきと言ってること、変わってない?」
マスコは、
(あ、いやゴメン。なんか、B級映画みたいなご
その
長いものには巻かれる。
社会で生きていく為の、基本的なスキルである。
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