第二話 VILLAN OR HEEL? OR THE EVIL?

 1 聖水。

 へへ、一仕事終えた後は気分が良い。ちょっと早めに祝杯でもあげるか。


 俺はちょうど近くにあったコンビニの駐車場に車を停めて、そのドアを開ける。ピーピー、と警報が鳴るが、別に気にするコトでもない。車外にキーを持ち出したからだ。


 うわ、やっぱさみぃな。おい、どうなってるんだ?【耐久力】で体温は逃げづらくなってんじゃねえの?


わたしの『感想』でよろしければ、お答えします。【ステータス】で貴方あなたの体のこうじょうせいは強化されていますが、熱を感じる神経は今まで通りに働きます。よって——」


 名前も知らねえ俺の【ナビ】が、俺の疑問に応える。無表情な人形みてえなやつだ。フランス人形的な。 


 あーうるせえ。もういい! 小難しい言葉使ってんじゃねえ。お前、俺のナビならよ? 俺の知ってる言葉で話しやがれ。

 

「お答えします。お言葉ですが、私は貴方の知っている言葉しか——」


 くそっ。だからもういい、つってんだろ? ハイハイ、わかったよ。俺が忘れてるだけって言いてえんだろ? ったく、せっかく人が良い気分で買い物しようとしてんのに。


 俺は車のドアを閉めて、ロックをかける。エンジンはつけっぱなしだ。


 さーてと、ビールビール……ん? なんか揉めてんな。


 コンビニの中に入った俺はレジを見る——店員に何やら「いちゃもん」をつけてる客がいた。胸がデカい巻き髪の女を連れている。


 やっぱ女はケツだよな? あの女、ピッチピチの短えスカート履いてんのにパンツのラインが見えねえ。ありゃきっと、Tバックだ。あんな年甲斐もなく金髪にしているオッサンにはもったいねえぜ。


「お言葉ですが、貴方も頭髪とうはつをブリーチで——」


 だからうっせえ。もう喋んな。つーかよ? お前も俺のナビならあれくらい見た目しやがれ。


 俺のナビは口を閉じた。


 んで? ナニはなしてんだ?


 俺は、店員とだせえオッサンの会話に聞き耳を立てる——。


「だからさ。責任者はいないのかって言ってんの。わかる?」

「申し訳ございません」

「申し訳ないじゃないよ。ナメてんの? なんで酒の数も数えらんないんだよ?」


 オッサンが店員に、一方的にまくしたてていた。レジに置かれたカゴの中には、缶ビールやら酎ハイやらが、山ほど入っている。


 ははは、よくある光景。んなもん自分で数えろやって感じだよな? しかもあの店員、顔に出ちまってるし。よしよし。ちょいと助け船でも出してやるかね?


 俺はオッサンに近づいた。オッサンも俺を見る。


「なぁオッサン。目障りなんだけど」

「ん? なんだアンタ。コイツと知り合い?」

「いや知らねーよ。てかオッサン。アンタ口悪りぃな」

「アンタこそさっきから——」

「口くせーよ。喋んのやめてくれる?」

「何? もしかして喧嘩売ってんの?」

「そうだよ。てか気づくの遅え」


 我ながらめちゃくちゃなコトを言ってる自覚はあるが、これが挑発というものだ。日サロで焼いたようなオッサンの顔が、見る見るうちに赤みを帯びる。


「お前! 言っとくけど俺は——」

「女の前だからってイキってんじゃねえよ。てかその女、アンタにはもったいねえ。どうせ金目当てなんだからさ、強がったって意味ないぜ?」


 俺は言いたい放題だ。オッサンの顔は、ますますになっていく。「金目当て」と俺に言われた女も、少しだけ目つきがキツくなった。


 へへ、怒った顔も可愛いねえ? ピンクの口紅が良い感じだ。ますます欲しくなってくる。


「ちょっと悪いね、お兄ちゃん。お店、少しだけ荒れるぜ?」


 俺の言葉に店員は、はっとしたような顔になる。


 おいおい、そんな顔してんじゃねえよ? お前の為にやってんだからさ。


「あ、アンタ、マジでやる気なのか? 言っておくが俺の【ジョブ】は——」

「ジョブぅ? 笑わせんじゃねえよ。そんなもんに頼らねえとてめえの強さも自慢できねえのかい? 『俺は強い』。それで十分じゃねえか」

「俺の、ジョブは……」

「先に言っとくけどな。ちゃっちゃとアンタをボコったらその女の前で、俺のションベン飲ませてやるよ」

「しょっ!?」


 オッサンは言葉を詰まらせた。ビビッてやがる。


「当たり前だろ? アンタみてえな汚ねえオッサンにくわえさせてやるほど、俺のモノは安くねえ。でもかわいそうだから仕方なく飲ませてやるんだ。俺のをな。感謝しろよ?」


「ねえ、もう行きましょ? レジの打ち間違えなんてどうでも良いから」


 女のほうが言葉を発する。オッサンはもう、ハッスルする元気はないみてえだ。


 相手のションベン飲む覚悟もねえヤツが「喧嘩売ってんの?」とか言ってんじゃねえよ。まあ、俺も飲んだことねーけどよ? ああ、つまんねえ。レベル上げのチャンスなのに。


 ——いや、待てよ?


 すとん。


 レジの奥にいる店員の頭が、揺れる。俺の投げたないひだり

 根元までズブリと。

 指を引っ掛ける輪っかしか、外からは見えねえ。


 盗賊系のジョブ専用武器【初級忍者セット】——初回特典で貰ったCランクの武器だが、中々使える。


「あ、アンタ! 何やってるん——!」


 すととん。


 苦無はオッサンのりょうにもヒットした。


 うーん、やっぱ便利。意識するだけで手の平に無限に湧き出るっつーところがね。。くく。


 女は今、目の前で死んだヤツらを見て、目を丸くし、そのつやっぽい唇の隙間を広げる。整った白い歯が並んでいるのが見えた。


「おっと、声はあげるなよ? お前まで殺す気はないんでね」

「〰〰〰〰!!」


 女は喉から出かかった「声」を、唇を閉じることで飲み込む。


「よしよし、良い子だ」

「なん、で? 何でこんなことするの?」

「ん? 店員に通報ボタンとか押されたら面倒臭えし、そのオッサンはフツーに邪魔だった。それだけ」

「じゃま?」


 ——あ、邪魔といえば他の客も邪魔だね。


 店内には漫画雑誌を立ち読みするのに夢中で、こちらのやりとりに、まったく気づいていない客もいた。俺は、その冴えないメガネくんにも、苦無を投げる。苦無はメガネくんのコメカミらへんに当たり、刺さった。


 うーん。あれじゃあ死んでねえよな? あ、そうだよ。こんな時こそにんじゃとう


 俺は「短く真っ直ぐな刀」を、メガネくんに投げつける——グラつくメガネくん目がけて一直線に飛んでった。


「ひっ!」


 女が短い声を漏らす。


 いちいちビビッてんじゃねえよ。


 俺の投げた忍者刀は、メガネくんの頭を貫通し、その奥の壁に貼ってある「万引きは犯罪です!」とか書かれてるポスターに、メガネくんごと突き刺さった。


 そういやさあ、何で頭をやったら死ぬんだっけ? ……いやおい! ナビ! お前に聞いてんだよ!


「お答えします。喋るなと言われましたので」


 応用の効かねえヤツだな? いいか? 俺が質問した時はすぐに応えろ。


「わかりました。『ソソらない』見た目の私がお答えします。ステータスで強化された恒常性により、【HP】が尽きない限り、肉体の損傷は再生します。ですが、脳を損傷した場合、肉体の各種機能が停止したり、誤作動を起こします。そして、脳の損傷が回復したとしても、肉体の機能が回復するとは限りません。更に——」


 あーもういい。わかったわかった。要するに脳みそがやられるとマズいわけね?  あ? なんだよ? そんな目で見てんじゃねえ。ああうん、わかったって、ありがとよ。


 俺のナビは表情を変えない。


 ……気持ち悪いヤツ。


 さて、残った邪魔モンも消したことだし、このネーちゃんとの会話に戻りますかね。


わりいな。会話の続きといこう。まぁ大した理由じゃない。ほんの心変わりさ。それで他の奴らが邪魔だっただけ」

「ここ、ろがわ、り?」

「アンタと、この店にある酒、全部欲しくなったのさ。レジの金は、まあついでかな? さっき一仕事終えて大金が手に入る予定だから、あんまりいらねえ」


 てかその仕事自体が、金を盗んだ的なもんだったんだけど。今は相方が持っている。


 俺がその金を持たない理由? 俺は手ぶらが好き。ただそれだけの理由。


 つーかあのババア、これから大金が手に入るんだから、いつまでも「仕事」してんじゃねえよ。 俺のがお前の仕事だろ? このネーちゃんみたいにさ。


「おいネーちゃん。お前【アイテムポケット】って【スキル】持ってる?」

「……持って、ます」


 おお、ラッキー!

 

 アイテムポケットってのは、しゅうのう用のスキル。服とか髪の毛とか、そういうトコの隙間から色んな物を出し入れできる。このネーちゃんが、もう持ってるってことは、「レベルアップ」させてやる手間が省けたってワケだ。


「よっしゃ! じゃあさ、この店の酒とかツマミとか全部詰め込んじゃってよ? なるべく急ぎめで」

「うう……」

「くく。よしよし、良い子良い子。じゃあこれから、アンタんちで祝杯だ。もちろん一発ヤッた後でだぜ?」


 この名前も知らねえネーちゃんは、俺に文句も言わずに店の商品を、服とかスカートとか、そういうところの隙間にねじ込む。


 へへ、良い女だ。やっぱ女はさ、抱き心地が良くて、男にじゅうじゅんなヤツが、一番だな。



 俺の名前は陣内じんないはや

 称号は【半グレ】ジョブは【盗賊】。

 そして、現代に生きる「盗賊」だ。


 



 

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