第34話 死地9

   人物紹介

  モンゴル側

 ボオルチュ:チンギス筆頭の家臣。万人隊長。アルラト氏族。四駿(馬)の一人。北城本丸攻めの指揮官。


 トルン・チェルビ:チンギスの側近。千人隊長。コンゴタン氏族であり、第1部『問責の使者3~4』に出て来るスイケトゥ・チェルビの兄。ウルゲンチ攻めにては、ボオルチュの配下で遊撃隊の指揮官。(ちなみに、イェスンゲは城外の遊撃隊の指揮官であり、今回の作戦には加わっていない)


 ブカ:トルン・チェルビの配下。百人隊長。詳細は番外編の第22話『モンゴル軍の動き8』参照。

  人物紹介終わり




 次に異変に気付いたのは、トルンの隊であった。この者たちは北城本丸と南城北門の間におった。大きな騒ぎが北門の方から聞こえて来たのであった。しかしボオルチュの許しを得ずに、持ち場を離れることはできぬ。急ぎ様子を見にやらせ、敵の攻撃にさらされておることを確かめた後、ボオルチュへ北門の援護に回りたいと訴えた。


 許可を得て、急ぎ向かう。しかしトルンたち二千人隊が救援に赴いたところで、何とかなる状況ではなかった。北門付近におったはずのチャアダイの大部隊は見当たらず、今は北門から続々と自軍の兵が逃げ出して来ており、またそれを追って敵兵も来る。


 否応なしにトルンたちもそれに巻き込まれた。味方を逃がし、敵の追撃をはばもうとする。しかし果たしてどこまでそれをなし得ておるのか、トルン自身にも分からぬ。その状況を見て、ばらばらになるなと命じたにもかかわらず、ブカを含め多くの姿を見失い、やがては周りに残るを得た者たちと共に、自らの身を守るだけで精一杯となった。




 退却時、トルンはボオルチュと合流した。そこで、南城に攻め込んだ部隊の全滅を避けることができたのは、そなたたちの働きのおかげだとの言葉をもらったが。それでも肩を落とさざるを得なかった。斬られたブカの死体が運ばれて来たのである。


 果たして面目めんぼくを取り戻さんとしての気負い立った戦い振りをなしたのか。余りの混乱振りに、そのさまさえトルンは見届けてやることができなかった。死ぬことはなかろうに。あんな者のために。そのバカ息子のために。


 我が父モンリク・エチゲはあの者を親同然に育て上げた。それがどうなった。弟ココチョスは殺されたではないか。天意テンゲリに通じるを得た弟を。その天恩クドクあらたかな力により、チンギス・カンとの称号をあの者に授けたのに。むしろ感謝されてしかるべきであろうに。


 それにもかかわらず父はあの者の非を問わなかった、責めなかった。むしろココチョスが図に乗り過ぎたのだと、想い上がり過ぎたのだと進んで自らの息子の非を認めたのであった。


 とはいえ、それでは己は父を非難できるのか。父のみ悪いのか。己も他の兄弟たちも、ココチョスを殺されてもそれで何をなすということもなかった。何を違えるということもなかった。


 そしてこたびの西征にも我ら兄弟は参加し、己のみならず配下の命を危険にさらして、相変わらずあの者へ忠誠を尽くしておる。いつまで。いつまでだ。反乱などなしうるはずもない。我らが滅ぼされるだけである。父は正しかったのだ。ただいつまで。いつまでなのだとトルンは自らに問わずにはおれなかった。




 後書き ここまで読んでいただき、ありがとうございました。番外編もいよいよ最終章の「死地のその先」を残すのみとなりました。そこで、完結させてから投稿したいと想い、次話の投稿まで10日ほど日にちをいただきたく想います。最後となりますので、少しでも完成度を上げたいと想います。よろしくお願い致します。


追記(11月27日)

 明日くらいには投稿再開できるかなと想ってましたが、昨日、今日と2エピソードを書き加えました。書いた直後というのは、どうしても冷静に判断できません。私の場合、そこに熱が入っている分、実際の内容より素晴らしく想えたりすることが良くあります。また、最後ということもあり、盛り込めるところは盛り込みたいとの想いもありますので、およそ1週間ほどいただき、12月3日には投稿再開したいと想います。

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