第30話 死地5
人物紹介
モンゴル側
ボオルチュ:チンギス筆頭の家臣。万人隊長。アルラト氏族。四駿(馬)の一人。北城本丸攻めの指揮官。
オゴデイ:チンギスと正妻ボルテの間の第3子。
アルチダイ:オゴデイ家の家臣。万人隊長。
人物紹介終了
そしてやはりボオルチュの読み通り、本丸の敵軍は次の日、夜明けと共に動いて来た。出撃は徒歩にて南門――ここを攻囲するは己が直接指揮する二千人隊であった――とその真裏の北門からであった。共に良く守り出撃を防ぎ、遊撃部隊や他の門の攻囲部隊に応援を頼む必要もなかった。
ボオルチュが、今回の出撃から想定した敵の策は二つ。一つは最も南城に近い南門から出たいが、そこの防ぎが固ければ、遠回りとなるが真裏の北門から出ようというもの。その前段としてまずは南と北の部隊の強弱を見極めんとしたのではないか。
もう一つは、この攻撃は注意を南北の門に集めるための陽動であり、つまり東と西のモンゴル軍をそちらに移動させることを狙ったもの。それからその裏をかいて、東西いずれかの門から出撃せんとする策。
そのいずれもありうるとみて、各部隊の配置の変更はしないこととし、軍議を開き戦況を議論する余裕とてないこの状況下、次の伝令を各千人隊長に発した。
『恐らく次の攻撃にて、敵はいずれかの門から大軍を発し、攻囲陣を力ずくで突破し、そのまま南城北門へと至らんとするであろう。初手を防ぐを得たとはいえ、あれは様子見の出撃。攻囲部隊は決して油断するな。また遊撃の各隊もいつでも動けるよう準備されよ』
ああ。お酒が飲みたい。
場違いなことが頭を占めておるオゴデイの指揮する南城東門。そこにおいてもやはり夜明けと共に動きがあった。
敵はまず橋とその先に板を敷くことから始めた。かさ上げして、泥土に馬が足を取られぬようにするためであるは明らかであった。
オゴデイはそれを妨害しようと考え、最前列に布陣する千人隊に、下馬して前進し、工事を行っておる者たちに矢を射かけよと命じた。
矢の届く距離にまで進んでおる時に、城壁上から敵矢が飛来する。高みから放つ分、敵の方が射程が長く、それを利しての攻撃であった。まだ何もできておらぬのに、少なからずの被害が出た。
その隊長はオゴデイに伝令を発し、
『城壁上の敵と矢を射かけ合うのは得策ではありません。むしろ敵の出撃を許し、野戦にて射かけ合うべきです』
として、引き退くを願い出た。
オゴデイはあっさりとそれを認める。良くも悪くも、オゴデイには、自らの策に対するこだわりが無い。そもそも
かさ上げの工事を終えると、敵騎馬隊が出撃して来た。待ち構えるモンゴル部隊を避けて進むつもりだったのだろうが、先頭の馬数頭が泥溜まりに足を取られ転ぶと停止した。そして改めて周囲をよく見る如くであった。オゴデイ側の一隊が近付く動きを見せると、強引に突破しようとして突撃をかけて来ることもなく、あっさりと引き退いた。
配下の将いわく、
「出撃して始めて悟ったのでしょう。確かに遠目からは泥溜まりはそれと分かりにくいものです。城壁上からでは判別は、まず無理でしょう」
別将いわく、
「こちらが妙に間を空けて布陣しておるとみて、その間隙を突く考えであったのかもしれませぬ。そこが泥溜まりにて塞がれておると知り、あきらめて退却したものと想われます」
さもありなんと考えたオゴデイではあるが、念のために、敵の出撃に備えよとの命を再び発した。ただ、その心中には、ボオルチュからの『出撃を抑えてください』との頼まれごとのみがあった。
少し後、南門と西門からも敵出撃を防ぎましたとの連絡が入った。本心からいえば、そこを委ねておるアルチダイらを招き、とりあえず祝杯をと行きたいところである。
だが、今回の南城侵攻、未だその序盤に過ぎぬとはオゴデイも十分に承知しておる。父上や
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