第14話 2の矢5

  人物紹介

 ホラズム側

オグル・ハージブ かつてのブハーラーの守将。

シャイフ・カン かつてのサマルカンドの守将。

クトルグ・カン かつてのジャンドの城主。

 戦況の推移とともに、3人ともウルゲンチに逃げて来たのである。

  人物紹介終わり




「どうしたのだ。あれくらい簡単に答えられように」


 住民と別れた後、二人で隊商宿キャラバンサライに向かっておる時のシャイフの台詞せりふである。


「いや。あのようなことをいきなり問われるとは想いも寄らず」


「まあ。そなたらしいと言えばそなたらしいか。我ならばそこで想いついたことを答えてしまうが。それで問題なかろう」


 そう言われても、オグルにはやはりすぐには言葉を返せぬ。


「ただ護衛隊長を託されたことは、クトルグ・カンのそなたへの信頼の証。これは喜べよう」


 とシャイフに言われ、オグルも少しばかり頬を緩める。


「しかしあの件はやはり許してもらえぬようだ」

 と再び自らの心を引き締めるは、まさにオグルのさがというものであった。

「我は無闇に人を殺すべきではないと想うておる。そう想われぬか」


「それはそれでそなたの美徳よ。我はそんなそなたを嫌いではない。ただ人の宿願を邪魔立てしたのだ」


 それから後、共に黙り込み、オグルはシャイフを地下道入口まで送り別れた。




(宿願)


 確かにシャイフはそう言った。カンクリこそがこの国のあるじたるべきとの考えを持つ者たちが確かにおった。その旗頭はたがしらがクトルグであった。そしてシャイフもその一派と目されておった。


 派の中には、その目的のためにはホラズム・シャー家の王統を滅ぼすことも辞さずとの強硬論を唱える者がおることも聞き知っておった。ジャラールのみならず、本来はここにてスルターン位を継ぐべきウーズラーグ・シャーまでもが逃げたのは、そうした者たちを恐れるゆえとのもっぱらの噂であった。


 王子たちが逃げた後、シャイフに一度そのことを尋ねたことがあるが、「今更そんなことを知ってどうするのだ」と聞き返され、返答に窮したところへ「それにそなたはホラズムシャー家の者ではないのだ。そこまで義理立てする必要もあるまい。そなたが助けたあの者が何かしてくれたか。そしてこの先そなたを助けてくれるとも想えぬが」とジャラールの件も揶揄やゆされては、問い続けることはできなかった。


 その後にフマル・テギンが新スルターンに推されたのは、その派がウルゲンチの実権を掌握したからに他ならなかった。そのフマルも、クトルグの策に従い、モンゴルにいつわりの投降をなした。これでは、スルターンの権威とは何ぞやと想わざるを得ぬ。


 ただ、他方で、スルターン・ムハンマドがあのざまではこうなっても致し方なかろうとは想う。あんな方とは。ブハーラーにてカリフ征討からの凱旋に際し、おそばに呼ばれ話をし、それをしばらく誇りにしておった。今となっては恥ずかしい。

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