第52話 フス・オルダのクラン・カトン

  人物紹介

 モンゴル側

クラン・カトン:チンギスの皇妃。第2オルド(他に7人の后妃)の主。メルキトの王女。息子はキョルゲン一人。

  人物紹介終了




 クラン・カトンは、やはり無理を言ってでも、カンについて行くべきであったかと、1日1回は想う。


 ここ、カラ・キタイの旧都たるフス・オルダ(ベラサグンとも)にはオングトの孛要合ボヤオハイも留まっておった。この者は、まだ数え10才であり、幼すぎるとして最前線に赴くことを免じられておった。


 年が近いこともあり、息子のキョルゲンの良き遊び相手となっておった。手指が凍える如き寒さとなるまでは、二人して馬の早駆けを競いあったり、弓の腕比べをしておった。


 その後は、多くの遊牧勢の子供たちと同じく、そしてかつてのチンギスやジャムカと同じく、碑石遊びを氷上でなしたりしておった。


 ボヤオハイの父と兄は、オングト勢内での反乱により殺されておった。ゆえにチンギスがこの者を預かり、次の領袖とすべく大事に育てておるところであった。


 その2人の遊ぶさまを見ては、やはりカンの言う如く、行くべきではなかったかと想い直す。まずは、息子をしっかりと育て上げねば。それが己が役目と想い改めるのであった。


 しかし日をまたぐと、否、またがずとも、やはり無理を言ってでも云々ではあった。


 そのいずれの想いを抱えるにしろ、度々西を見やる。目に入るは、薄く積もった雪原に、まばらに散らばる家畜の群れ。そして丈高い木々がところどころに。


 無論、見たきものはそれではない。


 あれだけの軍勢を従えるカンである。よもや、自ら敵の矢の当たるところに赴くことはなかろう、ましてや敵刃に身をさらすなどありえぬはず。


 そう想うも、無事、再び会えますようにとテンゲリへと祈る日々でもあった。




 ところで、クランの娘であり、キョルゲンにとっては2才上の姉のアラハイも、ここにおった。


 遊びに夢中のまだまだガキの2人とは異なり、この時、しっかりボヤオハイを見初め、将来の伴侶としたいとまで想い定めておった。


 とはいえ、クランの全面的な協力を得つつ、弟のキョルゲンにも無理矢理手伝わせて、ボヤオハイ攻略大作戦を展開するのは、もう少し後のことであったが。


 結果としてアラハイの恋は実り、2人は恋仲となり、ボヤオハイが数えで17才の時夫婦となった。


 ここにも尻に敷かれる男がまた1人、という訳であった。

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