第7話 オトラル戦4:チンギス軍議1
人物紹介
モンゴル側
チンギス・カン:モンゴル帝国の君主
ジョチ:チンギスと正妻ボルテの間の長子。
チャアダイ:同上の第2子
オゴデイ:同上の第3子
トゥルイ:同上の第4子。
イェスンゲ:次弟カサルの子供 (チンギスにとってはオイ)。
ボオルチュ:チンギス筆頭の家臣。アルラト氏族。四駿(馬)の一人。
シギ・クトク:チンギスの寵臣。戦場で拾われ正妻ボルテに育てられた。タタルの王族。
ジェベ:チンギスの臣。四狗の一人。ベスト氏族。
スベエテイ・バアトル:チンギスの臣。四狗の一人。ウリャンカイ氏族。
人物紹介終わり
オトラル城に到着したその日、チンギスにより軍議が招集された。現時点で、ホラズム兵の待ち伏せも急襲もなく、オトラルが
とはいえ、あくまでそれは最終確認に近きもののはずであったが。一つ
まずカンの軍、ジョチの軍、そしてオゴデイとチャアダイの合軍、その3つに分けることについては、誰も異論を差しはさまなかった。敵国への侵攻時に軍を分けることは、モンゴルの常道であった。
最大の部隊を率いるカンが、スルターンのおるサマルカンド攻略に自ら向かうこと。ただし、ブハーラーを先に落として向かうか、それともサマルカンドに直行するかは、カンの最終判断に一任すること。カンとしては、出発直前まで、可能な限り情報を集めて、それをもとに判断したい考えであること。
そしてチャアダイ、オゴデイ部隊がオトラル攻略のために残ること。これらについても、異議を差しはさむ者はおらなかった。
問題はジョチ部隊の取り扱いであった。ボオルチュは、シルダリヤ川沿いの城市を攻略すべきと提案した。それに対しジョチは次の如く主張した。
「父上とトゥルイが、スルターンを捕らえるために首都サマルカンドを落としに行き、またチャアダイとオゴデイが、
この国は、かの地が
「ジョチよ。なぜ
とチャアダイ。
「功を焦るだと。馬鹿なことを申すな。サマルカンドが落ち、オトラルが落ち、そして旧都ウルゲンチが落ちたならば、このホラズム征討を早く終わらせられるというもの」
そこまで言ってジョチは、はっとした如くであった。チャアダイに痛いところを突かれて、ついつい口走ってしまったのであろうか。
カンが
この軍議には、そのイトコに当たるイェスンゲや重臣たるジェベやスベエテイも参加しておった。しかし、あえて王子たちのいさかいに割って入ろうとはせぬ。ジョチとチャアダイの争いはかねてからのものであり、下手をすればまさに
その立つ位置も、ジョチがトゥルイと共にチンギスの右側、チャアダイがオゴデイと共に左側と分かれて立つのが、二人の参加する軍議の決まりとなっておった。なにせ、いつ
ただボオルチュのみが次の如く進言した。
「ウルゲンチまで戦線を広げれば、かえって敵に我が軍の分断の好機を与えることになりましょう。もしウルゲンチ攻囲中にジョチ大ノヤンの軍が挟撃されるような状況に
再び軍議を沈黙が領した。王子たちの争いを
「
そこでチンギスは、ジョチの反論を待つためか、しばし時を置いた。やがて次の如くに付け加えた。
「ただそなたのウルゲンチを是が非でも落としたいという気持ちは悪いものではない。シルダリヤ川沿いの城市の征討を見事に成し
そうまで言われては、ジョチもその主張を続けることはできないと考えたのか、押し黙った。
その後、ボオルチュが説明を続けようとするのを
ジョチの指揮下より、サイラームにて付したイェスンゲ万人隊を外すとした。他方チャアダイ、オゴデイには、そのイェスンゲ万人隊を加え、合計五万人隊とするとした。
それが、今回ジョチがだだをこねたゆえか、それとも単に軍略上の観点からのものなのか、チンギスは明言しなかった。いずれにしろ軍の編成権はチンギスにあり、ジョチが文句を言える筋合いのものではなかった。
チャアダイ、オゴデイ、イェスンゲはすぐにその場にひざまずき
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