第3話 みんなと一緒
騒がしくなった教室の中で、さくらは彼らから受け取った想いを頭に浮かべる。
アゼツは、私が初めての友達。
そして神様見習いの神竜でもあったから、私達が幸せになってほしいと思う気持ちが強い。
誰かが諦めていたら、こうしてみんなで生きる事ができなかったから。
だから今でも、幸せになる事だけを優先してほしいって、言ってくれる。
リオンは、『サクラが笑うと、春が来たように温かな気持ちになります。だからサクラはサクラのまま、生き続けて下さいね』って、言ってくれた。
あの時はまだヒロインのサクラで受け止めたけど、今はさくらとして受け入れられた。
ずっと、そんな風に生きられない自分の名前が嫌いだったのに、リオンの言葉で大好きになったんだ。
ラウルは、アバターで本当の自分を誤魔化していた私に対して、『見た目が変わろうが、みんなの態度は変わらねーよ』って、言ってくれた。
その言葉通りで、ゲームの中にいた時と、みんな変わらない。だから細すぎても、髪の毛が短くても、私は普通の女の子としていられる。
クレスとキールは心配症。
クレスは心の色で、キールは心の音で感情がわかるから、ゲーム内では私の気持ちが誰よりもわかっていたからだろうな。
でも、見守ってくれた。私が選んだ事だからって、何でもやらせてくれた。本当に危ない時は助けてもくれる。
私は病気で、何をするにも許可が必要だったから、その気持ちが凄く凄く、嬉しかった。
ノワールは、『サクラは生まれた時から、これから先もずっと人間だよ。完璧な人間なんて存在しない。誰しも、様々なものを抱えている。それが病気であっても、人間は人間だ。だからね、サクラが恋したいのなら、すればいいんだ』って、言ってくれた。
遺伝子をいじるから、手術が成功しても人間じゃないって思う人もいる。だから私は、恋する事も生きる事も、諦めてた。
でもノワールの言葉で、私も普通の人間として生きていいんだって、思えたんだ。
恋のお手伝いをするはずだったのに、私はたくさんたくさん助けられて、前を向けた。
みんなの想い人とも友達になれて、私を含めて、全部が大切な存在になったんだよ。
改めて、胸に宿った想いが溢れ出しそうになり、さくらは涙が流れる前に目をこする。
みんなはざわざわとしたままだ。
クレスとキールも、この世界で生きるなら力を使わずに感情を読み取れるようになりたいと宣言しているので、気付かれずに済んだ。
けれど突然、アゼツが声を張り上げた。
「いい加減にして下さいっ! これじゃさくらが勉強もできないですし、休めもしません!」
「そうだよねぇ。せっかく女の子達もいないのだから、のんびりさくらと過ごせる時間なのに」
「そうじゃないです!! ボクの話、聞いてましたか!?」
怒り心頭のアゼツをまるで無視するように、ノワールがまったく別の返答をする。
「私もアリア達と一緒に行けばよかった」
「学園内を案内するのは時間がかかりますし、明日には会えますから。今日はゆっくり過ごして下さい」
「今の時期に転入って私と同じようなものだから、仲良くなりたいなぁ」
ぽつりとさくらが呟けば、リオンが困ったように微笑んだ。
4月も終わる頃に、さくらは術後観察含め、全寮制の学園生活を始めた。
そして明日、転入生が自分のクラスへ来る事を聞いていた。
その案内を任されているのが、男の子達の元想い人である子達だ。
もう自分の気持ちにケリがついているからと、異性として好きではない事を告げられている。それでも、ゲームの中で恋を教える立場だったのに自身の恋のかたちがわからず、それを知りたいと彼らは言っていた。
だからさくらはそんなみんなを応援するべく、恋のお手伝いをしようとしている。
自身も恋した事はないが、乙女ゲームで培った知識を駆使する覚悟で。
「明日のためにも、休みましょうか。もう疲れましたし……」
「じゃあお菓子パーティーしよ!」
アゼツが諦めたようにうなだれれば、クレスがぱっと顔を輝かせる。
すると、食堂から調達してきたさまざまなお菓子が入った大きなバスケットを、さくらの机の上に置く。
こうやって過ごせるの、幸せだな。
頬が勝手に緩むが、それに身を任せる。
これからもずっとこの楽しい時間が続けばいいと、そう願いながら。
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