「専門職に劣るから居ても邪魔だ」とパーティから追放された万能勇者、誰もパーティを組んでくれないので、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。ちなみに俺を追放した連中は勝手に自滅してるもよう。
第3話「私もあっくんもね、この孤児院で一緒に育ったの」
第3話「私もあっくんもね、この孤児院で一緒に育ったの」
王都から馬車で10日程移動し、村はずれの小さな教会にたどり着いた。
小さな教会と言っても、普通に民家よりは二回り程大きく、屋根には十字架が立てかけられている。
ここが、俺の育った孤児院だ。
孤児院と言っているが、元はただの教会だった。
12年前にモンスター大災害により孤児が増え、それを見かねた教会の主が孤児を受け入れるために教会を孤児院にしたのだ。
俺が孤児院を出たのが5年くらい前だ。
当時は何もない所にポツンと建っていた教会だが、今は柵で覆われた畑が周りに作られている。
その畑を耕しているのは、子供たちばかりで、その作業の様子を黒い修道服の女性が見守っている。
孤児院を経営するには、教会の儲けだけでは厳しいから少しでも自給自足をするためだろう。
俺達に気付いたガキンチョ達が指を差すと、修道服の女性がこちらへパタパタと走って近づいてくる。
その女性に、見覚えがあった。
「あっくん!」
「あっくん?」
ベル達が一斉に俺を見る。
「……姉さん、あっくんはやめてくれと言ったはずだが」
いい年してあだ名でくん付けは流石に恥ずかしい。
「あっくんったら、見ない間に随分大きくなって、お姉ちゃん見違えちゃったわ」
「そうか。とりあえず、あっくんはやめてくれないか?」
「あら、そっちの子達はあっくんのガールフレンド?」
人の話を聞いちゃいねぇ……。
この人はいつもそうだ。マイペースに自分の話したい事だけを話すから、どうにも調子が狂う。
「こいつらはパーティメンバーで、昇格試験の為にここに来た。それとあっくんはやめてくれ」
「あーあー。そう言えばそうだったわ」
両手をパンと合わせ、納得したような顔で頷いている。
「それじゃあ、まずは教会の為にご奉仕活動をして貰おうかしら」
「それが昇格試験の内容なのか?」
「……さぁ?」
笑顔のまま首を傾げやがった。
ニコニコと笑顔のまま、農作業の説明をし始めたし。
「アンリ。ちょっと良いかしら?」
「うん? どうした?」
「その方を私達にも紹介して貰えるかしら?」
「そうだったな」
完全に姉さんのペースに乗せられていた。
「申し遅れました。私はカトリーヌです。この教会でシスターをしています」
姉さんが頭を下げると、ベル達もつられて頭を下げた。
「アンリさんの、お姉さん?」
「姉と言っても、血のつながりは無いけどな」
「私もあっくんもね、この孤児院で一緒に育ったの」
俺も姉さんも、かつてのモンスター大災害で孤児になり、孤児院で一緒に育った。
俺より歳が3つ上だから、一応姉さんと呼んでいる。
俺と姉さんの言葉に、ベル達は少々気まずい顔をしている。
別に気にしていないのだが、言われた側は気にしてしまうか。
「それで、あっくんのガールフレンド達はなんていうのかな?」
「だからパーティメンバーだ。それとあっくんはやめてくれ」
ため息を吐きながらベルに目配せをする。
「えっと、ボクはベルと申します。アンリさんのパーティでタンクを務めています」
別に役割まで言う必要はない気がするが。まぁいい。
「私はモルガン。
「クーはクー・フリンだ! 武闘家だぞ!」
「あらあら。それじゃあ、あっくんとクーちゃんは畑にある大きな岩を退けて貰えるかしら? 作業の邪魔になるけど、大きいから動かすのが大変なのよ」
「おー。クーに任せろ」
「ベルちゃんは子供たちが危険なことしないか見張っててね」
「はい。分かりました」
「それでモルガンちゃんは、お姉ちゃんと一緒に聖堂のお掃除!」
「げっ」
やると言っていないのに、勝手にご奉仕活動とやらの指示を飛ばし始めた。
とはいえ断ろうにも、昇格試験だからなぁ……多分。
「教会の主はマザークレアって言うんだけどね。信心深い人以外が聖堂のお掃除をすると凄く嫌がるのよ。だけど、モルガンちゃんなら僧侶だから大丈夫よね!」
「いえ、私は……」
モルガンは流石にこの状況で「神様とか信じてないんで」などと言えず、戸惑っているな。
元々生まれ育った集落でのけ者にされた腹いせに、僧侶の真似事をして懺悔室で話を聞くふりをして、自分たちをのけ者にしたくせに縋ってくるのを見て楽しんでいた奴だ。
そんな信じてもいない神様の為に掃除なんてしたくないのだろうな。心底嫌そうな顔をしている。
「それじゃあ、がんばろー」
モルガンが姉さんに引きずられながら、教会へ入って行った。
それを見届けてから、俺達も作業を始めた。
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