第2話「それじゃあ試験を始めるよ」

 門番にあらかじめ教えて貰った場所に着くと、見慣れた建物があった。冒険者ギルドだ。

 どこの街の冒険者ギルドも大小の差はあれど、見た目は大体一緒だ。


 冒険者ギルドの中へ入って行く。

 見た目も一緒なら、中に居る人間の態度もどこも一緒だった。

 扉を開ける音に、中に居る冒険者達がこちらを振り返り、よそ者と分かると無遠慮に見て来る。


 ただ、王都と言うだけあって、反応はお上品だ。

 ニヤニヤした感じで見てくる視線は無く、こちらを値踏みしているような感じだ。

 若いという理由で、俺達を見下した態度で見る者は少ない。


「あの……」


「気にするな」


 相変わらずベルはこの歓迎が慣れないらしく、尻尾を垂らしながら俺の後ろに隠れてしまう。

 ベルの仕草で、大半の冒険者はこちらへの興味を失ったようだ。

 こんな事で物怖じする冒険者なんて、ランクが低い奴が殆どだからな。


 そして、興味をなくしたという事は、ここに居る連中はそれなりにランクの高い冒険者達という事か。

 まだ一部こちらを見ている人間も居るが、気にせずカウンターまで歩いていく。

 カウンターには、胸が大きいのが特徴の女性職員が立っている。


「すまない、昇格試験を受けに来たのだが」


「はい、伺っております。中へどうぞ」


 ふむ。

 昇格試験と言っても、周りの反応は薄い。 

 つまり、昇格試験に来る冒険者はそれなりに居て、俺達のように若い冒険者が高ランクなのも見慣れている、という事か。


「アンリさん。立ち止まってどうしたの?」


「いや、なんでもない」


 驚きの声を期待していたわけではないが、ここまで反応が薄いのはちょっと予想外だった。

 まぁ、変に絡まれるよりはマシだ。

 案内されるまま、奥の部屋へと入って行く。


 ノックをして返事を待ってから扉を開けると、中には壮年の女性が机に座っていた。

 温和な笑みを浮かべている。手元には書類と羽ペンがある。今まで作業をしていたのだろう。


「入る前にわざわざノックをする冒険者は珍しいね」


「俺の居た孤児院では、部屋に入る前にノックを忘れると折檻されるんだ」


「そうかい。躾がなっている良い証拠だよ。入りなさい」


 優しい声だった。

 ノックをした事だけなのだが、好印象だったのだろう。


「あぁ、自己紹介は不要だよ。お前さん達の事は書類に目を通してあるから知っているからね」


 ふむ。紹介する手間が省けたか。

 

「私がこのギルドのマスター。カトリーヌだ。見ての通りただの老いぼれだから、昇格試験が落ちたからって腹いせに襲い掛かってこないでくれよ」


「クー達はそんな事しないから大丈夫だ!」


 モルガンがクーの頭をはたいた。


「すまない」


 クーのはたかれた頭を、今度は俺がグイっと掴み、頭を下げさせた。全くコイツは。

 カトリーヌはその様子が面白かったのか、おやおやと言いながら笑っている。


「早速本題に移って悪いが、試験の内容を教えて貰えるか?」


「若い子はせっかちだねぇ」


 そう言って、カトリーヌが机の引き出しから書類を取り出した。

 

「試験内容は5つ。指定された4ヶ所を巡礼し、それぞれの場所に居る試験官から合格を貰ってからここに戻ってくる。戻ってきたら最終試験を始めるよ」


「それぞれの試験内容を教えて貰えるか?」


「それは現地の試験官の裁量に任せてあるからね。私は知らないよ」


 事前に準備して挑めるわけではないのか。

 討伐や採取の場合、誰かから買い取って持って行くとか、ズルが出来るから教えないだけかもしれないが。


「それと知っているとは思うけど、AランクのアンタはSランクになるが、BランクのアンタたちはSランク相当って扱いでランク自体は上がらないが、良いかい?」


 Sランク相当。ランク自体はBのままだが、俺と一緒にSランクの依頼を受ける事が可能になる。

 Aランクと一緒にSランクに上がれるなら、関係ないBランクが一時的にパーティに入隊してSランクになろうと考える輩も出てきそうだから、Sランク相当という処置になっているのだろう。

 一応Aランクに上がった際にギルドで申請をすれば、試験自体は合格しているのでSランクに上がれるから無意味ではないが。


「大丈夫です!」


「大丈夫だ!」


「ええ、大丈夫よ!」


 カトリーヌの問いかけに、ベル達が答えた。

 俺についてくるのが目的だから、彼女たちはランクに固執しているわけではない。


「分かった。それじゃあ試験を始めるよ。行き先は地図に書いてある、もし分からなければ職員にでも聞いておくれ」


 1枚の簡易地図を渡された。

 地図には一ヶ所×印がつけられている。ここに向かえという事か。


「思ったより近い場所のようね」


「アンリさん。ここがどこにあるか分かります?」


 ベルの問いかけに頷く。


「あぁ、知ってる」


 何故ならそこは。


「俺の育った孤児院だ」

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