第5章

第1話「Sランクになるための試験を受けに来た」

 眼前に広がる城壁に、俺は、いや俺達は思わず驚きの声を出した。

 流石王都と言うだけあって、見事な城壁が街を囲んでいる。


 デカさもさることながら、壁一面に描かれた模様が、更にこの城壁の凄さを物語っている。


「綺麗ですね。これって街を囲う壁全部に書かれているんですか?」


 ベルは歓喜の余り、ファサファサと尻尾が揺れている。

 

「あぁ、そうだ。確かに美しい模様ではあるが、実は意味があるんだ」


「意味、ですか?」


「あぁ。あの模様は、実は魔方陣で描かれているんだ」


 そう、壁の模様は別に見栄の為に描かれているのではない。

 近くで見れば分かるらしいが、模様は一つ一つの細かい魔方陣で描かれている。

 有事の際には魔力を込める事で、魔方陣から魔法を発動させる仕組みになっているそうだ。


「じゃあクーが魔力を込めたら、ドッカーンってなるのか!?」


「もしかしたらなるかもしれないが、捕まるからやめておけよ」


 有事の際に使われるためのものを、興味本位で使用したとなればお縄に着くことになるだろう。

 なのでクーには割と強めに「やってはいけない」と伝えておいた。


「分かった!」


「そうか、分かったか!」


「うん!」


 コイツ絶対分かってないな。

 変な事をしないように見張っておく必要があるな。


 城壁にある魔方陣は普通に魔力を込める程度では、発動しない仕組みになっている。

 専用の手順が必要なのだ。

 だがクーは『魔力伝導』という、本来は物質を通過させづらい魔力を簡単に通過させるユニークスキルを持っている。

 なので、そのせいで簡単に発動させてしまう可能性がある。


「アンリ、あなた王都に来た事があるの?」


「いいや、無い」


 モルガンの質問にキッパリと答える。

 人伝に聞いただけの話だ。


「あっそう」


 そう言って呆れつつも、俺に色々と聞いてくる。

 事前に下調べをしてあるので、大体の事は答えられた。


「聞きかじった知識ではあるが、王都についてはある程度は把握している。このまま進めば王都に出入りするための門に着くぞ」

 

 王都への門は一カ所しか存在しない。

 守るための城壁なのに、門を沢山作ればそれだけ侵入経路を作ってしまうのだから当たり前だ。

 とはいえ、それでは逆に囲まれた際に逃げる事も困難になるだろう。


 噂では、城壁の魔方陣を使えば新たな城門を作り出したり出来ると言われていたりする。

 ちゃんと調べた者は居ないので、本当かどうかは定かではない。


 城壁の魔方陣を勝手に調べてる奴なんていたら、真っ先に捕まえる対象だしな。

 下手をすれば国家転覆罪にもなるのだとか。だったらわざわざ模様の形になるように魔方陣を掘るなよと言う話だ。

 見せるように仕向けておいて見るなと言うのは、どういう了見だと。

 

「中に入りたいのだが、良いか?」


 門につくと、当然ながら門番が居た。

 甲冑を纏った兵士の二人組だ。


「何か身分証はあるか?」


「冒険者用のドッグタグがある」


「見せて見ろ」


 兵士に言われるままに、ドッグタグを取り出し、兵士に差し出した。

 俺がAランクを示す銀、ベル達がBランクを示す銅だ。


 ドッグタグを受け取った兵士が怪訝な顔をしている。

 まぁ当たり前と言えば当たり前か、俺達がAランクやBランクになるには、あまりにも若すぎる。


 兵士たちの態度に、ベル達が少しビクつき始めた。

 これは良くないな。やましい事は何もないが、ベル達の態度に兵士たちが疑問を感じ始めている。

  

「Sランクになるための試験を受けに来た」


 このままではややこしい事になりかねない。

 王都に来た用件と共に、ギルドマスターからの紹介状を出した。


「ふむ。悪いが確認をさせて貰っても宜しいか?」


「あぁ、構わない」


 門番の兵士が門をくぐり、城内に居る兵士に何やら伝言を伝え、ギルドマスターからの手紙を手渡した。

 俺達の入城許可が下りたのは、それから数刻してからだった。


「確認が取れた。疑ってしまって済まなかった」


「構わない。それがあんたらの仕事で、王都の平和を守っている証拠だ」


「そう言ってもらえると助かる」


 俺の言葉に気を良くしたのか、門番だけじゃなく、門の内側に居た兵士達も口々に「試験頑張れよ」と声をかけてくれた。

 無邪気に手を振るクーに、兵士達も手を振り返す。褒められて気を良くするのは、自らの仕事に誇りを持っている証拠だろう。 


「アンちゃん。試験頑張ろうね!」


「あぁ、そうだな」


 早速壁に向かって歩き出そうとするクーを止めながら、俺達は真っ直ぐ冒険者ギルドへ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る