ドーガ視点「コイツに”教育”してやるだけだ」

 -ドーガパーティ-

 -ドーガ視点-


「どうだ、悪い話じゃないだろ? 俺のパーティに入らないか?」


「悪いね。他をあたってもらえる?」


 盾戦士風の女は、去り際に冷ややかな目で俺を見やがった。

 チクショウ。これで10人目だ。

 役立たずアンリを追放して、代わりに入れた盗賊は使い物にならなかった。

 使い物にならない盗賊はゴブリンの巣で切ったから、新しくパーティメンバーを探しているのに、誰も首を縦に振ろうとしてくれない。


「クソッ! なんでだ!」


 苛立ちから、ギルドの壁を殴りつけると、笑いが起きた。 


「あぁ? 何がおかしい! オイ言ってみろ!」


「ちょ、ちょっとやめなよ」


「また問題起こしたら冒険者資格取り消されるんだから、やめてよね」


「うるせぇ! おい、今笑ったのはてめぇか!」


 テーブルに座って、俺の事をニヤニヤ見ている冒険者を指さした。

 確か最近Cランクに上がったばかりの、ドランといったか。たかがCランクの分際で生意気だ。

 俺に指を指されてるのに、ヘラヘラ笑っている。


「笑わせておいて笑うなってのは、無理があるだろ」


 テーブルに近づき、襟首を持ち上げる。


「いい年してCランク程度の雑魚が、調子に乗ってんじゃねぇぞ」


「もう、ほんとやめてってば!」


「うるせぇ!」


 カテジナが割って入って来たので、腕を振り払い突き飛ばした。


「きゃっ」


「ドーガ!」


 まだ何か言おうとするカテジナとシャルロットを、睨みつけ黙らせる。


「喧嘩じゃねぇよ。コイツに”教育”してやるだけだ」


「Dランク冒険者に教育される覚えはないんだが?」  


「あぁん!?」


 確かにDランクに降格はされたが、それは全部ミーシャのせいだ。

 少なくとも、その事でこいつに馬鹿にされる覚えはねぇ。

 俺は役立たずを引っ張って、Bランクまで上がった男だ。


 この街に来たばかりの頃は、周りに一目を置かれていたのに。

 クソ、ミーシャなんかと組んだばかりに、この俺がこんな扱いを受けるのは辛抱ならねぇ。


「ハッ! 所詮はCランクの雑魚と金魚のフンだ。さっきから口ばかり、俺に恐れをなしたか?」


「恐れをなした? ゴブリンに恐れをなして仲間を巣に置いて逃げ帰ったドーガ、お前がそれを言うのか?」


 ドランの言葉で、ギルド内に爆笑が起きた。

 もう決めた。コイツは殺す。


「お、おい」


 俺が剣を抜くと、周りがシンとなった。

 やっと自分たちがやらかした、事の重大さを理解したようだ。


 次問題を起こせば冒険者資格を剥奪になるかもしれない。だから俺が手を出してくる事は無い。

 そんな風に考えていたのだろう。

 だが、今回は明らかに俺は悪くない。こいつらが原因だ。手を出しても不問になるだろう。

 なので、ここで今一度、俺の腕前を見せておく必要がある。二度とバカに出来ないように。


「剣を抜いたという事は、冗談で済まさない。分かっているんだろうな?」


「当たり前だ。どうしてもって言うなら土下座をして俺の靴を舐めるなら、考え直してやっても良いぜ」


 もちろん、そんな事をした所で許すつもりはない。

 靴を舐めた所で、顔面を蹴飛ばしてやる。


「良いだろう。相手をしてやるよ」


 剣を抜いたドランから、笑みが消えた。

 たかがCランク上がりたて程度の腕で、俺に歯向かうとはな。笑わせてくれる。


 その鼻っ柱をへし折ってやるよ。

 俺は構えると同時に踏み込み、ドランに斬りかかった。


「えっ?」


 勝負は一瞬だった。

 何故か俺の手から剣が離れていたのだ。


 俺の手を離れた剣が、空中で回転しながら俺目掛けて飛んでくるのが見えた。


「う、うぉあ!?」


 思わず後ずさりをした際に、バランスを崩し尻もちをついた。

 ガニ股になった俺の足と足の間に、剣がすとんと落ちて来た。


 あぶねぇ……あと少しずれていれば、俺に当たる所だった。

 サーっと血の気が抜ける音がした気がした。


「ヒッ!?」


「まだやるか」


 ドランの剣が、俺の頬をかすめる。かすめた部分に軽い痛みが走る。

 手で触ると、指には赤い液体がついていた。少し遅れて頬からツーっと血が流れる。

  

 俺が負けた?

 股間からぐっしょりした感覚が広がっていく事に気づき、放心状態から覚めた。


「ドーガの奴、負けておもらししやがったぞ!」


 そう叫んだのは誰だっただろうか?

 再びギルド内で爆笑がわいた。

 

「おま、クソッ!」


 何かを言おうとするが、上手く言葉が思い浮かばない。

 その間にも股間のシミが広がっていくばかりだ。


「カテジナ! シャルロット! こんな所はもういい、さっさと行くぞ!」


 俺は剣を引き抜くと、足早にギルドを出た。


「ドーガさん達、また何か問題を起こしたのですか?」


「いや、ちょっと俺が”教育”しただけだ」


 ギルドを出る際に、ドランと職員がそんなふざけた事を言ってるのが聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る