第9話「キミたちが強すぎるからだ。手に余ると言っても良い」

 寝不足でやや気怠い体を起こし、ギルドまでやって来た。

 道中ベルが心配そうに声をかけてきたが「まだ疲れが取れていない」と言って誤魔化した。

 実際、寝不足だから疲れが取れていないのは本当だが、それ以外にも疲れる原因がある。


 その原因モルガンはというと、極力俺を見ないようにして、クーに構ったりしている。

 まぁ、話しかけられても普段通り対応できる自信がないから、ありがたくはあるのだが。



 ★ ★ ★




「と、報告はこんな感じだ」


「はい。報告完了しました。お疲れ様です」


「それとこれは中の地図だ。どの部屋に何があったか書き足しておいた」


「ありがとうございます。討伐隊が正式に組まれるでしょうから、その際に活用にさせて頂きます」


 俺から手書きの地図を受け取り、ニーナは部屋の奥へ入って行った。

 しばらくすると、ニーナと共に、貴族みたいな白いタキシードスーツを着た男が、にこやかな笑みを浮かべて出てきた。このギルドのギルドマスターだ。


「やぁ、こんにちわ」


 線の細そうな感じで、一見華奢なイメージを受けるが、これでも元Sランクの冒険者だ。

 弱そうな見た目をしているため、優男と勘違いをして喧嘩を売る冒険者は少なくはない。

 そして、その全てが返り討ちにされている。


「そちらのお嬢様方は初めましてだね。私はこのギルドのマスター、ゾルです」


 ゾルが頭を下げると、ベル達も頭を下げて自己紹介をした。


「キミたちの話は色々聞いてるよ。タイガーベアを駆除してくれたり、この辺り一帯の魔物を一掃してくれたりね」


「恐縮です」


 うんうんと頷きながら、俺達をじっと見つめ、人懐こい笑みを浮かべる。

 わざわざギルドマスターから出張って来たのだ。ちょっと顔を見に来ただけではないだろう。

 

「少し話がしたいんだ。良かったら奥の部屋に来てもらえるかい?」


 出来れば行きたくないが、そうもいかないのだろうな。

 行くしかないか、とりあえずベル達にも確認だけは取っておこう。

 もしベル達が嫌なら、代表として俺だけが行く形でも納得させられるだろう。


「そうそう。丁度良いお茶とお茶菓子も入ったんだ。良ければ食べていくかい?」


「クー行くぞ!」


「えっと、それじゃあボクも」


 食い物につられたクーが元気に返事をすると、ベルが釣られたように返事をする。

 しっぽが少し揺れてるのを見ると、お茶菓子に興味はあるようだ。

 モルガンはどうするか聞こうとして、目が合った。


「では私もご相伴にあずかります」


 そのままプイっと目を逸らされた。 

 そんなあからさまに意識されると、俺まで意識してしまうのだが……


「おや? おやおやおや?」


 うるさい黙れ。


「確認させてもらいますが、話というのは勿論”仕事”の話ですよね?」


「それ以外の話はだめかい?」


「プライベートな話題は、避けて貰えると助かります」


「やれやれ。仕方がありませんね」


 ギルドマスターはそう言って肩をすくめ、奥の部屋へ入って行った。

 俺達もその後に続いて奥の部屋へと入って行った。



 ★ ★ ★



 連れて来られたのはギルドマスターの部屋だ。

 部屋の入り口には女性が控えている。


「彼女は秘書のようなものでね。気にしないで好きな所に座ってくれ」


 机を挟んで大き目のソファが4つある。

 俺はギルドマスターの対面に座り、その両脇のソファにベル達が座った。


 俺達が座ると、秘書がそれぞれの机の前にカップを置き、カップに紅茶を注ぐ。

 全員に注ぎ終わると、一礼し部屋の外へ出て行った。


 カップの横には、先ほど言っていたお茶菓子が並べられている。

 クーとベルは話そっちのけで、既にお茶菓子をガン見だ。


「キミたちに話というのは3つある」


 お茶菓子に手を付けようとしたベル達の動きが止まったのを見て、ギルドマスターは「食べながら聞いてくれていい」と苦笑している。


「まず1つ目、彼女達の冒険者ランクを上げて欲しいとの事だが、今回の依頼で十分すぎる程の成果を上げている。Dランクへの昇格を認めよう」


「ふぉんふぉふぇすか!?」


「しゃべるなら食い終わってからにしろ」 


「ふぁい」


 返事をして、ベルはそのままお茶菓子を食べる事を再開した。

 ギルドマスターの話よりも、お菓子の方が優先かと言いたい所だが、まぁいい。


「それで、2つ目は?」


「そうだね。2つ目なんだけど、ドーガ達の処遇についてだ」


「ドーガ達の処遇?」


 それが俺達に何の関係があるのだろうか?


「彼らは以前、キミに対し酷い事をして、悪いウワサを流したようだね」


「えぇ、まぁ……」


「パーティ内の不和でもあるし、その時は証拠不十分だからギルドとしては何も言えなかった。正直すまない」


「いや、パーティの問題だ。ギルド側が気にする必要はない」


「そう言ってもらえると助かるよ。ただ今回の件でミーシャが『ドーガ達にハメられた』『囮にされた』と言ってるそうなんだ」


「はぁ」


 その辺りの話は俺達も直接ミーシャ本人から聞いている。

 ただ、それも証拠になりえないだろうな。囮を買って出たが、その辛さに耐えきれず仲間を恨んでいる可能性もあると取られる。


「だが、申し訳ない事に彼女の虚言である可能性も捨てきれない」


「でしょうね。そもそも、危険な状況下なら、もしその通りでも仕方ないと思われるでしょうし」


 誰か一人を犠牲にすれば助かる。そんな状況になったのなら仕方がない。

 結局の所、それもパーティ内の不和でしかない。

 

「まぁそれ以外にも彼女に酷い仕打ちをしていたらしくてね。どこまで真実かどうかは分からないけど、捨て置くことは出来ない。なので彼らがもし、また何か悪さをしたと情報が入ったら、冒険者資格のはく奪を考えている」


「そうですか。分かりました」


 頭を下げる。

 ドーガ達の事はどうでも良いが、俺の事を気にして考えてくれていた事には感謝している。


「そして3つ目なんだが……」


 一つ咳払いをして、言いにくそうにしている。


「他の街のギルドへ出向いて欲しい」


 ふむ、それはつまり。


「この街のギルドから出て行って欲しいという事ですか?」

  

「単刀直入に言うとそうなるね」


 俺とギルドマスターの会話に、モルガンが口を挟む。


「どうしてか、理由をお尋ねしても宜しいでしょうか?」


「そうだね」


 笑みを消し、ギルドマスターは真剣な顔になった。


「キミたちが強すぎるからだ。手に余ると言っても良い」


 近隣の魔物を狩りつくす勢いで討伐し、なんならタイガーベアといった魔物まで討伐している。

 最近では俺達の真似をして無茶な狩りをしようとしたり、タイガーベアに挑んで負傷した者まで出たとか。

 Eランクの彼女たちと、噂では役立たずの俺がやれたのだから、自分たちでも出来る。そう思い込む連中も少なくはないらしい。


「それに、キミたちが留まったとしても、ここいら一帯の魔物はたいして強くない。ランクを上げるには不便だろうしね」

  

 このまま居座られたら、他の冒険者に悪影響が出る。

 冒険者ランクを上げてやるから出て行ってくれという事だろう。


 実際、ランクを上げるのに不便というのは、ギルドマスターの言う通りでもあるしな。

 良くてC、頑張ってもBまでしか上がらない。


 ここで変に妬みを買いながらランクを上げるよりも、適性ランクの仕事が多い場所に行けばランクも上げやすい。

 ランクが上げやすい場所なら同じランクの冒険者が多いから、妬みを買う事もない。

 

「分かりました」


「街を出るときは教えてもらえるかい。せめて私から一筆書かせて欲しい」


「ありがとうございます」


 その後は少し世間話をしてから、俺達は部屋を出た。

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