第2話「Bランクになってから言ってもらえるかしら?」

「この辺りか」


 手渡された地図を片手に森を歩いていく。

 地図に記された場所は、森に入ってすぐにある所だ。


「あ、人だかりが出来てます」


「多分ギルドから派遣された冒険者だろうな」


 歩いて30分もしない内に、目的の場所についた。

 洞窟を囲むように、複数人のパーティが居るのが見えた。


 その中に、見覚えのある顔があった。

 ドーガ、カテジナ、シャルロットだ。

 他のパーティと何やら話し込んでいる様子で、まだ俺には気づいて居ない。


「よう。あんたらがギルドから派遣されてきた冒険者か?」


 ドーガと話していた男が、俺に気づき片手を上げて気さくに話しかけてきた。  

 

「あぁ、そうだ。状況を教えてくれ」


 俺に気づいたドーガが、明らかに動揺をしている。

 カテジナやシャルロットも居心地が悪そうだ。


 ドーガ達の態度が明らかに変わったことに、男が眉をひそめたが、そこは仕事。

 男は出来るだけ態度に出さないように、話を続けた。


「どうやら中にはゴブリンの上位種がうじゃうじゃいるらしい。罠とかもあるが、地中からゴブリンが仕掛けてきたりもしたそうだ」


「上位種というと、ゴブリンウォーリアか?」


「いや、ゴブリンロードやジェネラルも居たそうだ」


「なるほど」


 ウォーリアですらめんどくさいというのに、ロードやジェネラルまでも居るのか。

 かなり厄介だな。


「中に居るのはゴブリンだけか?」


「いや、ブラウンウルフに乗ったゴブリンライダーも出るそうだ」


「オークは?」


「いや、まだ確認されていない。ただ、最近この付近でオークによる被害が報告されてはいる」


「なるほど」


 元々オークがゴブリンの巣を乗っ取っていたが、ゴブリンの上位種誕生により追い出されたのだろうな。

 この前倒した3匹は、もしかしたらこの巣に居た個体なのかもしれない。


 ならば、オークの上位種が出て来る危険性は少ないと見て良いだろう。

 もちろん警戒を怠るつもりはないが。


「他に情報は何かあるか?」


「それなら、このパーティが」


「……ふむ」


 元々音信不通になっていたパーティの一つがドーガ達だ。だから、ここでこいつらから中の情報を聞き出せれば、危険度は下がるだろう。

 問題はこいつらが素直に教えてくれると思うか?

 答えはNOだ。


 カテジナとシャルロットはふてくされたようにそっぽを向き、ドーガは挑発するようにニヤニヤと俺を見ている。

 多分聞いてもデタラメな答えしか返ってこないだろう。聞くだけ無駄だ。


「大体わかった。大丈夫だ」


「そうか」


 男は一連のやり取りで、俺とドーガ達の間に、何か確執めいたものがある事を理解したのだろう。

 それ以上何も言ってこない。


「お前たちはもう帰って良いぞ」


「チッ、言われなくてもそうさせてもらうよ。行くぞ」


 ペッとドーガが唾を吐いた。


「じゃあ後は任せたぞ。役立たずの勇者様」


「プッ、クスクス」


 見え透いた挑発だった。

 何か言って来る事は予想がついて居たし、こんなもんだろう。 


「そういうのは、Bランクになってから言ってもらえるかしら? ”Cランク”冒険者さん達」


 そう言ったのは、モルガンだった。


「あぁん?」


 モルガンが煽り返すと、ドーガの顔が見る見るうちに赤くなっていった。

 そういうお前はEランクだろと突っ込みたいが、まずはこいつドーガを止めるのが先か。

 煽るくせに煽り耐性が無い奴だからな。


「ふざけた事言ってると、どうなるか分かってるんだろうな」


 言い合いなら仲裁するつもりだったが、ドーガが剣を抜く所作を見せた。

 流石にそれはやり過ぎだ。何かしてくる前にモルガンの前に立ちふさがる。

 俺の隣で、クーもやる気満々と言った様子で対峙している。


「お前達、帰って良いぞと言ったはずだぞ」


 男が割り込んできた。見ると彼のパーティだけでなく、他の集まったパーティもドーガ達を囲むように臨戦態勢に入っている。

 完全に自分たちの不利を理解したのか、ドーガが軽く舌打ちをすると、そのまま足早に去ろうとする。


「ところで、お前たちのパーティの盗賊はどうした?」


 確か、ミーシャって呼んでいたか。


「あぁ? あいつなら私が囮になりますと言って、俺達を逃がすための囮になったぜ。俺達の為に献身的な奴だったな」 


 嘘だろうな。身を挺して守ってくれたという仲間だったら、涙も見せず、ヘラヘラ笑って言うはずがない。

 だが、あいつらを糾弾しようにも証拠が無い。


 全く、こんな奴らを信頼して長年パーティを組んでいたんだ。

 自分の人を見る目の無さを実感させられる。

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