ドーガ視点「役立たずが、最後くらいは役に立ったな」








 -ドーガパーティ-


 -ドーガ視点-




 クソ。何でこんな事に。


「ねぇ。大丈夫なの?」


「静かにしろ。奴らに気づかれるだろ」


 俺が小声で叱りつけると、カテジナは不機嫌そうな顔でそっぽを向いた。

 その態度が余計に俺を苛立たせる。


 俺達は今、洞窟の中にある小さな洞穴の中で息をひそめている。

 何が楽なゴブリン退治だ。話が全く違うじゃねぇか。


 俺は申し訳なさそうな顔で俯くミーシャを睨みつけた。



 ★ ★ ★



 3日前。俺達は意気揚々とゴブリンの巣へ入り込んだ。

 ミーシャの『気配察知』スキルは見事な物で、おかげで確実にこちらが先手を取る事が出来た。


 ミーシャの『隠密』スキルで後ろから唐突に斬りかかり、慌てふためくゴブリンどもを惨殺するだけの楽な仕事だった。

 進むにつれて、上位種などが現れる事もあったが、俺達の敵じゃない。余裕だった。


 そして進んだ先に居たゴブリンロード。コイツがきっとゴブリン達のリーダーだろう。そう思ってけしかけたようとした時だった。

 俺達を罠が襲った。飛び交う矢に打たれ、俺の腕に矢が突き刺さった。

 傷自体はそこまで酷くない物の、上手く剣を振るには手痛いダメージだ。 


 更に地面がボコりと浮き上がったと思うと、オークウォーリアやオークジェネラルまで出てきた。


「おい、『気配感知』でちゃんと警戒してなかったのか!?」


「してたよ! でも地面から出て来るなんて」


「言い訳は良い。逃げるぞ!」


 逃げ出そうとするが、来た時には無かった落とし穴や、そこからわらわらわいてくるゴブリン。

 もはや道を選んで逃げている余裕はなかった。必死に逃げて、偶然見つけた小さな洞穴に全員で飛び込んだ。

 それから2日が経った。食糧の備蓄は無くなり、満足に寝る事すら出来ない。


「どうするの?」


「そうだな。ミーシャ、ゴブリン共が減ったタイミングになったら教えてくれ。そのタイミングを見計らって外まで全員で逃げるぞ」


「上手くいくの?」


「知らねぇよ。もうそれしか策はないんだ。俺とミーシャが殿しんがりを務める。とにかく振り返らずに逃げる事を優先しろよ」


 殿に対し、ミーシャがごねると思ったが、俯きながら了承をしてくれた。

 この状況になったことに対して、こいつなりに責任を感じているようだ。


「今なら出口の方向のゴブリンが減ってる」


「よし、行くぞ!」


 俺達は洞穴から飛び出し、一斉に走り出した。


 カテジナとシャルロットは、少しでも身軽になるために道具袋も杖も捨てている。

 俺も鎧を脱ぎ捨て、今は剣だけだ。


 ゴブリン達が何やらよく分からない言葉を叫んでいる。多分俺達に気づいて仲間を呼んでいるのだろう。

 わき目も振らず走っていると、ゴブリンの声とは明らかに違う唸り声が聞こえてきた。


「ブラウンウルフに乗った、ゴブリンだ」


「なんだと!?」


 ブラウンウルフの姿はまだ見えないが、『気配感知』スキルがあるミーシャが言うのだから、間違いないだろう。

 洞窟ではブラウンウルフにとって足場が悪く、平地よりも移動速度が遅い。

 とはいえ、それでも俺達の足では逃げ切れない。

 仕方がない。


「ミーシャ。カテジナとシャルロットを逃がすために迎え撃つぞ」


「分かった」


 少し前を走るミーシャが立ち止まり、応戦するように反転した。

 俺はすれ違いざまに、ミーシャの足を切りつけた。


「なっ!?」


「後はよろしくな」


 ミーシャが何か叫んでいるが、あの足で走って追いかけてくるのは無理だろう。

 ゴブリン達の標的が動けないミーシャに向かったおかげで、俺達はなんとか洞窟から抜け出すことが出来た。 


 役立たずが、最後くらいは役に立ったな。

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