第3話「ゴブリンの巣が巨大化している」

 ドーガ達が去るのを見届けた。


「すまない。助かった」


「良いって事よ。大体、最初にけしかけて来たのはあいつらの方だろ?」


「そう言ってもらえると助かる」


 俺の横で、頭を下げようとするモルガンに、男は「良いって良いって」と必死に手を振って愛想笑いを浮かべた。

 モルガンは困ったような顔で俺を見てきた。他の奴らに良いと言われても、自分のせいで揉め事を起こした事について自責の念にとらわれてるのだろう。

 じゃあやらなければ良いと思うが、彼女の信念がそれを許さないのだろう。言っちゃ悪いが、損な性格だ。


 落ち込んだ状態ではパーティの士気に関わる。このままじゃ良くないな。 


「なぁクー。モルガンは何か悪い事をしたか?」


「してない!」


「そうだな」


「うん!」


「なんでモルガンは、そんな顔をしているんだ?」


 一瞬だけ、モルガンが笑った気がする。


「別に何でもありません。他の冒険者が待ってるから早く行きますよ」


 そのままプイっと顔を背け、前をずんずんと歩いていく。

 

「色男は大変だね」


「止してくれ。そんなんじゃ無い」


 何か知らないがこの男に気に入られたみたいで、にやにやと笑いながら、俺の首に腕を回して来た。

 別に振りほどく理由もない。とりあえず洞窟の前まで移動するか。


「俺はアンリ、冒険者ランクはBだ。ギルドからこの洞窟の調査と先に入った冒険者の生存確認の依頼を受けて来た」


 俺が名乗ると、男はやっと俺を解放してくれた。

 男は少し慌てた様子で、俺を無遠慮に見て来る。

 他の冒険者たちも同じようにマジマジと俺達を見た。


 冒険者ギルドの時とは明らかに視線の質が違う。ベルはそれを感じ取ったのだろう。

 しっぽを股に挟み、俺の後ろに隠れるようにしている。


 彼らがそう反応するのも仕方がない。俺達がBランクになるには、あまりに若すぎるからだ。

 他の冒険者は、一回りも二回りも俺達より年上だ。怪しむのも仕方がない。


 表情を見る限り、嫌悪や嫉妬でなく、好奇心から来るものだろう。

 とはいえ、ベル達みたいな新人には少し刺激が強いな。完全に委縮してしまっている。


「ちなみにジョブは勇者だ。ユニークスキル『オールラウンダー』を持っている」


 どうやら腑に落ちたようで、口々に「あぁ、なるほど」と言っている。

 

「なるほどな。疑っちまったようで悪いな」


「いや、慣れているから大丈夫だ」


「そうか。そういや自己紹介が遅れたな。俺はサイド。Cランク冒険者だ」


「おい、自己紹介なら俺も混ぜてくれ。俺はドラン。Dランク冒険者でサポートをするように言われてきたんだ」


 俺とサイドの会話に、もう一人の男が混じって来た。

 サイドより若く、俺よりは年上といった感じの男だ。剣を腰に携えているから剣士だろう。

 まずはリーダー同士で軽く自己紹介をした。


 サイドをリーダーとするCランク冒険者パーティ。

 ドランをリーダーとするDランク冒険者パーティ。


 自己紹介の後に自分たちの依頼を確認しあう。依頼内容がブッキングをしている場合があるので、確認をしないとめんどくさい事になったりする。

 基本依頼が重なりブッキングしていた場合は早い者勝ちになるが、報酬金額次第では共闘して山分けにしたりと相談することもある。


 今回はブッキングする事なく、それぞれのパーティが別の役割を与えられていたようだ。

 サイドは洞窟の見張りと、穴から出て来るモンスターの始末。ドランはそのサポートだ。

 もし俺達に何かがあって、24時間以上連絡が途絶えた場合は、片方がこの場に残り、もう片方が冒険者ギルドに知らせる手筈になっている。


 それぞれの役割を確認した後に、俺達はそれぞれのパーティメンバーを呼び、自己紹介をした。   


「さて、まずは入り口だが」


 入り口を軽く調べてみるが、特に何も見当たらない。

 ゴブリンの垂れ流しの糞尿や食い散らかしたゴミなどがいくつか散らばってるくらいだ。


 『警戒』スキルで中の様子を窺うが、特に反応はない。

 入り口付近で反応が無いというのは、あまり宜しくない。つまり相当奥へと続いているという事になるからだ。

 それは、ゴブリンの巣が巨大化している事に他ならない。


「アンリさん」


「どうした?」


 ベルがクイクイと袖を引っ張った。


「ボクの『プロヴォーク』で、中に居るゴブリンを全部引きずり出すのはどうかな?」


「なるほど。絶対ダメだ」


 規模が分からないのにそんな事をするのは、危険極まりない。

 それに周囲のモンスターも引き寄せてしまうから、もはや収拾がつかない事になるのは火を見るよりも明らかだ。


 シュンと項垂れるベル。彼女がそんな提案をしたがるのも仕方がないか。

 洞窟の中からは、相当の異臭がしているのだ。獣人の彼女は俺よりも匂いに敏感なのだから、もっときついのだろう。 

 モルガンやクーも、臭いに顔をしかめている。


「入ってしばらくすれば、臭いにも慣れる」


「出来れば慣れたくないですね」


「それは同意だが、仕方がない。行くぞ」


 ここで文句を言っていても始まらない。

 入り口付近に罠がない事を確かめ、俺達は洞窟の中へと足を踏み出した。

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