第3話 夜が明けて
『こっちでも大堀壮馬の死亡を確認した』
冬二が大堀壮馬を暗殺した夜。深夜二時過ぎ、
『後処理は俺の方でしておく。朝には悲運な事故死としてマスコミに報道されているだろうさ』
「頼んだ」
冬二は靴を脱ぎ捨て、重々しい装備を取り外しながら、少々ぶっきらぼうに言った。
『さて、一番の金づるを失った〈
「金が命よりも重いって考えている連中だ。今頃、大慌てだろうな」
『ああ。……傘下の連中を
これまで明確な罪状がなく、捕まえるに捕まえられなかった警察は、奴らを一網打尽にする機会が得られたわけだ』
「……
『どうだろうな。どこまで先を見ているのか、俺にも見当はつかない。ただ、確実に言えることは、お国さんは大堀壮馬を相当排除したがっていたってことだ』
コヨウと通話を繋げながら、冬二は冷蔵庫を
代わりに、台所に置いてあるカップ麺の蓋を開け、お湯を沸かす。
『だがまぁ、これ以上は〈
「ああ」
コヨウの話を適当に聞き流しながら、冬二は沸いたお湯をカップ麺に注ぐ。蒸気がたちまち上がり、ふわっ、と香ばしい匂いが部屋に充満した。
『……なんだ冬二。お前、これから飯か?』
「そうだ。誰かさんが俺に深夜の仕事を押し付けるから、まだ食ってないんだ」
『あー……。毎度すまないな』
「別にいいさ。俺に仕事が回ってきたってことは、どうせ他の連中が出払っているか、俺にしかできないことなんだろ」
『よく分かってるじゃねーか』
けらけらと笑うコヨウを
『この時間からラーメンか? 不健康になるぞ?』
「……不健康でも、何か食べないと怒るお節介な幼なじみがいるからな」
『はっはっはっ。そうかそうかっ。相変わらず仲良くやってるようで何よりだ』
その言葉に、冬二は返事をしない。
『何はともあれ、これでお前の任務は終わりだ。ご苦労さん。ゆっくりしてくれ』
「ああ」
冬二は短く返事をすると、通話を断った。
***
景太に貰ったエナジードリンクの空き缶を捨てに、渡り廊下にある自動販売機まで歩きながら、先生に見つからないようにスマホを操作する。
コヨウの言っていた通り、今朝のニュース番組では株式会社OHORIの代表取締役である大堀壮馬の死亡が報じられた。『殺害』や『不審死』などの他殺をほのめかす内容はなく、どれもが『不慮の事故死』として報道されていた。大手製薬企業の社長だったため、今頃、そちらの業界関係者の間では衝撃が走っているだろう。
今ではネットニュースもその話題で持ち切りだ。しかし、六華学園ではその話を全く耳にすることはない。誰もが、最新のドラマの話だったり、有名俳優や女優のゴシップ、ソーシャルゲームに課金した話や、おすすめのコスメの話に夢中だ。
「――ぇ」
「…………」
「――ねぇ」
「………………」
「――ねぇってばっ!」
「うぉっ、と」
不意に聞こえた苛立ちの含む声に、冬二は、びくっ、と肩を飛び上がらせスマホを落としそうになる。
なんとか空中でキャッチし、ホッと安堵のため息をつきながら向き直ると、そこには一人の女子生徒が冬二を睨みつけていた。
不機嫌そうな
「……えっと、なんか用?」
「どいて。邪魔」
「は?」
「キミの後ろ。あたしも使いたいんだけど」
そう言って女子生徒は、冬二の後ろへ視線を送る。そこには一台の自動販売機。空き缶を捨てるついでに考え事をしていたら、邪魔になっていたようだった。
冬二は慌てて横へずれ、「悪い」と謝る。
そんな冬二を女子生徒は一瞥し、自動販売機で景太に貰ったものと同じエナジードリンクを買うと、身を翻してさっさと教室へ向かっていった。
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