第4話 そして始まる
いきなりの沙織のセリフに一瞬でも思考が止まった。
「え……」
咄嗟に出たセリフはそれだった。
言っている意味がわからない、というかわかりたくない。
わかってしまったら、きっと俺はまた彼女を好きになるかもしれないから。
「ほら、勇作……おっぱいも尻も全部好きにしていいからさ、全部なかったことにしていいからっ」
「おいおい、何言ってんだよ。ヤリ○ンクソビッチがよ。欲求不満になったからって元カレにまで手を出そうとすんのかよ」
だから、俺は自分から彼女と離れる。
このまま彼女といたら俺は狂いそうだ。
「はっ、はぁ──っ! わ、私は言ったって本気よ! たしかに最近いいえ、ここ二週間このアパートに引っ越してきてから無性にムラムラが止まんなかったことは認める。けど、それとこれは関係ないっ!」
「ごめん、今はお前のことをそういうようには見えない。ただの元カノとしか見えないんだ。だから──ごめん」
まさか、隣に住んでいる人が元カノだったなんて出来事があるとは。
そして、その元カノが告白してきたんだぞ。
そんなのあっていいのかよ。
俺はドアノブを握る。
結論は否だ。
絶対にあってはならない。
一度までわかっている、一度別れるほどの中のやつが再度うまくいくなんてあり得ないと。
また苦しくてつらい思いをするだけだ。
なら、最初からそんなもの、断つのが正解に決まっている。
「ほら、玄関開けるから俺から離れてくれ。もしかしたら、お前のその姿見られるぞ?」
身体は男の理想そのものなのだ、もしこのまま外にいる男に見られたとしたら彼女の人生はどうなることやら。
だがしかし、沙織はギュッと俺の学ランを皺ができるほど強く握り離れる素振りを見せてくれない。
参った、こういうところは本当にわがままで可愛いんだよな。
「いい、私の裸ぐらい見られても。だから──私は勇作とまだ一緒にいたい。ほら、勇作? 私の裸を見てよ……」
「ごめん」
見れるものか、見たらどうなるこわかる。
その続きがあるのが怖いんだ。
「見てよ……」
「ごめん」
俺は臆病なのかもしれない。
元カノがこんなに必死なのにそれに応えられない俺が嫌いだ。
「見てよ……」
どんどんと元気がなくなっているトーンになるのが俺の心に罪悪感を持たせる。
女って本当にずるい生き物だ。
「ごめん」
やっと沙織は俺から手を離したと思うと、パタンと倒れる音がする。
「なんでよ……なんでよ……」
沙織の泣き声が部屋いっぱいに響き渡った。
今、彼女がどうなっているのか安易に想像できる。
きっと内股で床に座り、泣いているんだ。
「なんで、勇作は私を見てくれないの……」
本当にずるいだろそのセリフは!
「じゃ、じゃあ。俺は帰る」
なんか今日はもう疲れたなあ。
学校をサボって今日は家でぐうたらしよう。
ドアノブを回すと、ガチャリとドアが開く。
俺が腰抜けで沙織、本当にごめん。
玄関が閉まる寸前に最後に聞こえた言葉は。
「絶対にどんな手を使ってでも勇作と付き合う」だった。
○
ピーンポーンと朝早くにインターホンが鳴り響く。
時計を確認。
時刻は朝六時前。
本来ならまだ寝ている時間だ。
俺は急いでベッドから立ち上がり、かったるいなか寝巻きのまま玄関に向かい、玄関を開ける。
そして、玄関の前に立つ一人の制服姿の女子高生を見て目を大きく開けて「え?」と呟きながら驚く。
「なんで、お前が──っ!」
その女子高生はニヤリと笑い、スカートを捲り上げ、清楚な白色の薔薇の模様が入ったパンツを見せて言った。
「言ったでしょ? ──私、勇作のことが好きだからどんな手でも使って手に入れるって」と。
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