第1話 変化する日常

 俺はアマリアとカイに見送られ、仕事に出た。

 この王都ミューリアは人口僅か100万人。まだまだ発展途上国で、建設されてから30年ほどしか経っていない。

 俺はこの王都生まれだが、俺が生まれた25年前は人口は数万人しかいなかった小都市だった。

 それが今では他の国からの支援や移住によってここまで成長してきたんだ。他からは少ないと思われそうだが、俺は十分だと思っている。


 まぁ、快適かと言われればそうでもないとも言える。

 それは人口100万人行く辺りからだったか。当然の如く現れる失業者や他から移り住んできた難民達。

 それも腹を空かせて物乞いをする年の若い少年がいるほどだ。


 これは善意でも何でもない。ただ視界にそんな子供が映ると、どうしても手助けしたくなる。放っておけないんだ。特に子供にはな。

 俺は路地裏から這い出てくる子供を見て、昼食で持ってきていた乾パンを半分に千切って渡す。


「おい。これ食え。腹空かせてんだからこっちに来たんだろ? 俺みたいなやつ以外助けてくれはしねぇぞ? これ食ったら悪いやつに出会う前に戻れ」


 少年は俺の半分の乾パンを受け取ると、勢いよくかぶり付いた。こんな硬いバンをよくそんな簡単に食えるなと思うほどに。


 俺がしてやれるのはここまでだ。拾うつもりも支援するつもりもない。ただ正直に言って目で見た人間が後になって餓死でもしたら後味が悪いから、少しだけ助けるだけだ。そうして俺は仕事へ戻る。


 ただ俺は、少年の姿を見て少し気にかかることがあった。それは身なりは汚いものの、不自然に汚れも、怪我も、病気の跡もないことだ。


 親と喧嘩して家出か、または虐待か。それとも孤児院から脱走でもしたかと予想するが、どれだとしても綺麗すぎる身体とみすぼらしい服装が、予想の全てを外していた。


 今日は不思議で不可解なことが2度も起きた。25年間も生きていればこんなこともあるんだろうか。


 そんなことを考えながら俺は仕事場に着く。

 俺の仕事は王都ミューリアの土木作業。主に建物の建築や道の整備を行う。


「よぉ、ゼクト。今日はちょっと遅かったじゃねぇか」


「は、いつものことだよ」


「いつものことって……お前またガキに飯でもやってたのか? 程々にしとけよ。あいつら自分が生きるためなら家までついてくるからな。

 この前だってお前が助けたガキが仕事まで付いてきた時は焦ったぜ」


「ははは、分かってるよ」


 俺は仕事仲間と他愛もない会話をしながら仕事を始める。

 そしてその仕事の途中で今日の朝にあったステータスのことを思い浮かべると、まるで呼んだか? とでも言っているかのように目の前に青い窓が現れた。

 たまたま思い出したことで丁度現物が現れたので、仲間にも聞いてみた。


「なぁアレク。これ、何なのか知ってるか?」


「あ? んだそれ?」


「今日の朝からあるんだけどさ。俺の個人情報がざっと載ってんだよな。いや、なんのかは分からねえとしてさ、どんな意味があると思う?

 俺は魔道具の一種なんじゃねぇかなぁとか思ってるんだけど……意味のない魔道具なんてねぇからさ」


「んー、身分証明とか? だとするとこのお前の身体能力とか関係ねぇしなぁ」


「やっぱり分かんねぇか……」


 仕事仲間のアレクは、仕事終わりの飲み仲間でもあり、俺より先輩に当たるが、一番お互いを信頼しあっている仲だ。

 アレクは、土木作業の他に本職で魔道具の修理士をしており、俺のこの青い窓に関して何かしらの予想が付くのでは無いかと思ったが、なにも分からなかった。


 そうして更に仕事中、重い木材を肩に担いで持ち上げた時、なにも考えていないのに突然青い窓が現れた。

 すると、俺の身体能力にある筋力がC+1と表示されていた。

 ……。だがそれでも良くわからなかった。+1になったところでという話だ。何故1となったのか分からないし、俺は確かに力は強い方だが、このランクがどんな目安をしているのか全く分からない。


◆◆◆◆◆◆


 夕方8時に仕事は終わり、今日はステータスのことが気になるのでアレクとは別れた。

 家に帰れば、すぐにカイとアマリアが迎えてくれる。


「ゼクト、お帰りなさい」


「お父さんおかえりー!」


「あぁ、ただいま」


 今日は不思議なことばかりだが、家族がいることはどんな不安も疑惑もすべて吹っ飛ばしてくれる。唯一心が安らぐ場所だ。


 今日も平和な1日だ。なにも心配はない。

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