???(1)
「ここは……」
『残念ながら貴方は死にました。此処は死者の魂を天国に召すか、地獄に落とすか、はたまた別世界に投げるを判決する場所。神の裁判所とでも言いましょうか。
ようこそ。ユウトさん』
「裁判所……? 死んだ? 何が起きている……?」
『勝手ながら貴方に質問権と拒否権はありません。これより貴方の魂の判決を下します』
「ま、待て! ここは一体? 死んだってどう言うことなんだ?? 俺はいつ、どうやって死んだんだ?」
『貴方の魂は、天国に召す資格はありません。また地獄に落とすほどの価値もありません。よって判決は別世界にて新たな人生を送ってください。
貴方がまた死んだときもう一度此処に来るでしょう。その時に再度判決を下します。
それでは別世界への扉を開くので、黙って出て行きなさい』
「待ってくれ! お願いだ! どうしてどこで死んだのかだけでも教えてくれ!」
『申し訳ありませんが貴方に質問権はありません。どうしても聞きたいというのなら、また此処へ自分の足で来るといいでしょう。
まぁそんなことすれば、確実に地獄行きですがね』
「止めろ! やめろ! 待ってくれ! 待っ――――」
―――――――――――――――――――――――
俺はユウト……と言うらしい。何故か俺は死に、別世界に飛ばされることになった。
俺には記憶が無い。もしあの声がもっと詳しく教えてくれたなら思い出せただろう。
俺はいつ、どこで、どうやって死んだのか。死ぬ前は何をしていて、なんという名前だったのかも覚えていない。
ただあの声は、俺のことをユウトと呼んだ。
だから俺の名前はユウト。多分男だったと思う。自然と自分のことを『俺』と呼ぶからだ。
俺は何ら記憶なく突然に別世界へ送られた。聞きたいことがあるのなら、自分の足であの場所へ来いと言っていた。
それはきっと自害しろということだろう。そして自害してあの場所に行けば、必ず地獄に落ちると言っていた。
俺の記憶を取り戻すには、あの場所で聞く他は無いだろうが、地獄に行ってまで聞くことではない無いだろう。
俺は生前どんな生物だったのかは分からないが、せめて死んで記憶を取り戻すのなら、天国に行きたい。そう願う。
◇◇◇◇◇◇
俺は気が付くと薄暗く、狭くて冷たい石床に座り込んでいた。ここは何処だろうか? ふと視界の奥を見れば眩しくも温かい光と、耳に人の騒めきか聞こえた。
どうやらここは何処かの路地裏のようだ。
俺はその光に手を伸ばすも、力なく地面に落とした。力が入らない。
俺はその時、猛烈に腹が減っていることに気が付く。意識は朦朧としていて、呼吸も少しずつしか出来ない。
体は冷えきり、寒さで震える力も無かった。
「地獄に落ちたくない……せめて天国に……」
こんなの自害なんてする前に死ぬ寸前じゃないか。新たな人生なんて無理だろう。
あの声は、俺の魂は天国にも地獄にも行く価値が無いと言っていた。
つまり、また死ぬことで再審査をやるようだが、価値が無いのは生きる価値も無いからこんな扱いなのだろう。
だが、いくら待とうが俺に声を掛けてくる人間はいない。こんな路地裏だ。いるとしたら、悪い人間ばかりだろう。
兎に角、今の俺に生きる理由は何も考えられないが、次の死で天国に行くにはここでのたれ死んではいられない。
どうにか、どうにかあの光の元へ行かなくてはならない。
俺は身体を横へ倒し、匍匐姿勢になると腕を上げる力も無いが、とてもゆっくりと身体を前へ引きずるように動かし始めた。
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