記憶を失った少年と平凡な父親の日常録

Leiren Storathijs

プロローグ

 俺の名はゼクト。25歳で既婚。妻と息子が1人ずつおり、妻はアマリアで24歳、息子はカイで6歳になる。

 王都ミューリアで土木作業を仕事にして暮らしている。


 俺は朝7時に起きて、カイも一緒に起こす。アマリアは既にもっと早くに起きて、俺とカイの朝食を用意してくれいる。

 朝食は手の拳サイズの硬い乾パンと温めた牛のミルク。このパンは普通なら硬くて食えたもんじゃないが、ゆっくり噛み砕きつつミルクで流し込むことで普通に食えるようになる。

 中にはこの硬さが好きなやつもいるが……。


 俺ら一家の朝食はこれだけだ。別に貧乏って訳じゃないが、いつもアマリアが買いに行っている商店ではこの乾パンが栄養満点らしい。

 腹はいっぱいにならないが、不思議とこの乾パンは1個で十分に昼まで体が動かせるようになる。何が入っているのかは企業秘密らしい。


 なので昼食は、また別の乾パンを箱に火の晶石と一緒に詰め込む。ミルクは小瓶に入れて持ち込む。

 火の晶石は冷めたミルクを温めるためにあるものだが、偶に変わった者で乾パンを火の晶石で焼く奴もいる。

 焼いたパンはサクッとして美味しいらしいが、一度試すもあの焦げた匂いはせっかくの昼食を台無しにするから、俺は嫌いだ。


 そんな朝を迎えて、俺は仕事に出るところで見送るカイに声を掛けられた。


「お父さん、それなに?」


「え?」


 声に振り向くとカイが俺を見上げるようにして、指差していた。ただ指の先は、俺の身体ではなく、俺の眼前を指していた。

 カイの指す先を見て俺は気が付く。俺の目と鼻の先に青色透明で四角の窓が浮かんでいたことを。


 窓は俺の目の前の空中で浮き続けており、窓の中には白い文字が浮かんでいた。

 それは最初に『ステータス』と書かれており、俺の個人情報が詳細に書かれ、更に体力、筋力、魔力、敏捷の4つに分かれて俺の身体能力が記号のランクで表示されていた。

―――――――――――――――――――――――

[ステータス]

名前:ゼクト

年齢:25

性別:男

身長:178cm

体重:70kg

出身:王都ミューリア

職業:土木作業員


体力:D

筋力:C+

魔力:G−

敏捷:F


[スキル]

なし

―――――――――――――――――――――――

「ゼクト? どうしたのそれ」


 アマリアも近付いてきた。これは魔道具の一種だろうか。最高級の魔道具で王国とかが保管している刻印石ルーンストーンという中に刻まれた古代の文字を、空中に投影する魔道具は知っているが、それとこれは似て非なっている。


 というか俺はそんなものは持っていないし、拾ったり買った覚えもない。そもそもこの青い窓が投影されている物なら、どこから投影されているのだろうか?


「分からない……こんなもの見たこともないぞ?」


 俺はただ視界に邪魔なので、青い窓を手で振り払うと、青い窓もどこかへ消えていった。


「まぁ、いいや。どうせ大したことないだろ。じゃ、仕事行ってくるわ」


「うん、行ってらっしゃい」


「いってらっしゃーい!」


 これについては仕事から帰ってからじっくり考えることにしよう。今考えたって仕事に遅れるだけだ。

 俺はとりあえず謎の青い窓に関しては忘れて、仕事に赴いた。

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