あかりちゃんはウソを許さない!

aqri

嘘は悪よ!

世の中はウソがたくさんあると思わない?

そんなウソツキたちをこらしめるため、今日もあかりちゃんは東へ西へ、ウソを明かしていく!

真実は一つだもんね!


「楠、この間の話考えてくれたか?」

「社長、娘さんとの縁談の件ですよね。真剣に考えたんですけど、やはりお断りさせて頂きます」

「理由を聞いてもいいかね」

「はい。幼い時両親が離婚して、苦労して生きてきました。だから、結婚には夢を持っているんです。お見合い結婚ではなく、恋愛結婚したいという強い想いがあります。申し訳ありませんが、ここは譲れません」

「そうか……一目惚れされたっていうのも、ロマンがあると思うんだがな」


「ウソはいけないわ!」


 バッターン、激しい音と共に現れたのはあかりちゃん!鍵がかかっているはずの社長室のドアなんてなんのその!


「な!? だ、誰だ!?」

「社長令嬢との縁談を断るのはズバリ、娘がブスだからよ! こんなのと結婚したら地獄でしかないし豚の方が可愛い、金がある以外にとりえがない女なんてありえねえだろって友達と飲み屋で大笑いしながら話していたわ!ウソは悪よ!」

「はあ!?」

「おい、どういうことだ!」

「社長! こんなわけのわからない不審者の言う事信じないでくださいよ!」

「ちなみに証拠はこれね!」


 あかりちゃんは颯爽とスマホの録音を再生、確かに楠の声で一字一句間違いなくそう言っている!


「貴様ぁ!」

「……うるせえな、社長の立場利用してパワハラの脅ししてるテメエに言われる筋合いねえんだよ!給料がいいから辞めたくなかったがもういい! あんな妖怪みてえなの女としても人間としても見れねえよ! バッカじゃねえの!?」


 社長室から凄まじい怒号と物が落ちる音、何かが割れる音がするがあかりちゃんはすぐに次の場所へと走る!



「残念でしたね先生、今回こそ賞を取れると思ったんですけど」

「仕方ないさ、こればかりは。しかし無名の新人が文学賞か、どんな作品なんだろうな」

「今回の小説、かなり力入れてたし自信あったんですけどね」

「いや、まあ、精進しろってことだろう。君も担当以上のサポートをしてくれて本当に感謝してるよ、資料集めに取材にいろいろありがとう」

「いえ、これくらい編集者として当然です」


「ウソはいけないわ!」


 バッターン、と激しくドアを開けて書斎に入ってきたのはあかりちゃん!


「!? おい、誰だ!?」

「毎回毎回文学賞は出版社が大賞を取らせないために用意したダミー、編集部は応募作品を一つも読んでいないわ! ウソは悪よ!」

「……なんだと?」

「先生、警察! 鍵かけてる家に入って来たんですよこの子!」

「今とても興味がわくことを言っていた、どういうことか説明してくれ」

「何言ってるんですか! そんな事あるわけないでしょう! どれだけ僕が苦労してサポートしたか知ってるでしょう!」

「ちなみに証拠はこれね!」


 あかりちゃんは颯爽と紙束をばらまく! それは出版社で行われた会議の議事録! 誰も残していないはずの内容が事細かに書かれている!

 ついでにスマホを再生すると担当者の声を含め編集者の話があかりちゃんの言う通り会議をしている! 会社を有名にするための手段だから全部原稿は捨てろと言っている!


「なんだよこれぇ!? 何なんだよお前!」

「そんなことはどうでもいい。どういうことが説明しろと言っている」

「待ってくださいよ、僕は本当に何も知らないんです!」


 書斎から詰め寄る男の声と悲鳴のような声で弁明する男の声が響くがあかりちゃんはすぐに次の現場へと走る!



「ママ、まだ僕検査終わらないの?」

「うーん、もう一回ね。この間とは違う検査なの、頑張って」

「早く学校行きたいよ、僕だけだよ行ってないの。友達できなくなっちゃうよ」

「そうね。次の検査終わったら、学校いけないか先生に聞いてみるね」

「うん。ねえ、僕はいつ治るの?」

「1年くらいはかかるって言われてるわ。でもずっと病院にいなきゃいけないわけじゃないから、学校行けるように聞いてみるからね」


「ウソはいけないわ!」


 バーン! と病室のドアを力いっぱい開けたのはあかりちゃん! 病院では静かにね!


「な、なに!? 誰!?」

「その子は3か月もすれば死ぬって先生にこの間言われてたでしょ! 学校にも行けないわよ、外出許可は絶対に出ないわ! 何かあったら病院の責任になるもの! ウソは悪よ!」

「え……」

「ちょっとやめて! 誰よ!? 和明は治るって先生も言ってたわよ! てきとうな事言わないで!」

「ちなみに証拠はこれね!」


 あかりちゃんは颯爽と和明君のカルテを見せる、確かに難病末期と書かれていてたぶんあかりちゃんの字で「あと3か月で死ぬ」と追記までしてある!


「……うそつき」

「和明! あんな子の言う事信じないで! 本当に治……」

「うそつき! うそつき! 治るって、学校いけるっていったくせに! ママのウソツキ! 僕が学校楽しみにしてたの知ってるくせに! 何で嘘つくの!? 僕死んじゃうの!?」

「ちが……違うの……」


 病室からすすり泣く母親の声と、それ以上に泣き叫ぶ息子の声が響き渡り看護師たちがかけつけるがあかりちゃんはすぐに次の場所へと走る!



「卒業してもずっと友達だよ!」

「うん!」

「ウソはいけないわ! こんな馬鹿でブスな女とようやく縁が切れる、卒業式終わったらコイツの連絡先消そうねって他の友達と話してたでしょう! 証拠はこれね! ウソは悪よ!」

「なに、これ……皆、私の事そんな風に思ってたの……?」


「お母さん、どうしてお父さんと離婚しちゃったの?」

「お父さん、他に好きな人ができたのよ」

「ウソはいけないわ! 本当はアナタが不倫して夫から捨てられたんでしょう! 慰謝料請求されて、息子を殺した保険金でまかなおうとしてるでしょ! 子供も夫との子じゃなく不倫相手との子供! 証拠はこれね! ウソは悪よ!」

「……へえ、そう言う事。僕が子供だから騙せると思ったんだ。そんなわけないじゃん、もう12歳だよ。おかしいと思ってたんだ」


「サンタさんはいつ来るの?」

「サンタさんは姿を見られたくないから、みんなが寝たら来るのよ。だから早く寝て頂戴」

「ウソはいけないわ! 現代においてサンタクロースは存在しない! ついでにプレゼントあげるのもめんどくさいから悪い子だからもらえなかったって事で何も買ってないでしょう! 証拠はこれね! ウソは悪よ!」

「なにそれ、なによそれえ!サンタさんいるって言ったじゃん!ユイ悪い子じゃない!」


 あかりちゃんは走る!ウソを暴くため東へ西へ!



 今、あかりちゃんをたくさんの人が囲んでいる。あかりちゃんにウソを暴かれた人たちばかり。皆殺気立って凄い顔をしている、あかりちゃんを睨みつけている。


「あんたの……あんたのせいで! 和明は自殺したわ! あと3か月生きられるはずだったのに!」

「お前が変な事言うから、会社は倒産だ! 賞の捏造も全部俺のせいにされた! 俺一人が悪いわけじゃないのに!」

「あのクソ親子が弁護士使って俺に訴訟を起こしやがった! 億単位だ! てめえが余計な事言ったせいで!!」


皆口々にあかりちゃんを責める。今にも飛び掛かりそうな危険な空気。

しかし、あかりちゃんはそんなことにめげない!

皆の顔ひとりひとり見つめ、そして!


「やかましい」


 底冷えする声で言い放った。その声は今まで聞いた子供の愛らしい声色ではない、大人のハスキーボイスだ。囲んでいた者たちは一瞬びくりと体を震わせる。

 魔法少女のコスプレのようなふざけた格好をした子供が凄んだだけだというのに、腹の中から冷えるような、本能的に危険だと思わせる恐ろしい声。


 あかりちゃんは病気の息子を持った母親を見る。


「俺のせい? お前が嘘つくのが悪いんだろ。体がボロボロで自力で動くこともままならねえもうすぐ死ぬガキに絶望を押し付けたのはテメエだろ。あの病気がどれだけ苦しいか、息するのも起き上がるのも激痛で生きること自体が辛かったのにそれを嘘ついて無理やり前向きにさせようとして。学校に行けて初めてあのガキは救われたのに最後まで外に出ることができないまま死んだら今回の絶望以上の絶望を抱きながら死ぬだけだったんだぞ。てめえらはそれを頑張った、良く生きた、悲しい悲しいって悲劇のヒロイン気取りで一生を過ごすだけだろうが。てめえは全部テメエの事しか考えてねえだけだろうがよ、クソババア」


 あかりちゃんの、瞳孔が開いた空虚な眼差しで睨まれ母親は何も言い返せない。頭の中ではそんなことない、あの子の何がわかるの、と言ってやりたかった。


 しかし、見えるのだ。あかりちゃんの後ろに、和明が。あかりちゃんと同じように無表情で、しかし獣のようなまなざしで睨んでいる。その眼差しはあかりちゃんの言っていることをすべて肯定していた。

 あかりちゃんの後ろには、いつの間にか他にも嘘をつかれた人達が立っていた。皆同じ表情をして、ウソをついた人たちを睨んでいる。無表情のまま、眼差しだけはナイフのように鋭く。


「俺はこいつらが嘘だと薄々気づいていたから願いを叶えてやっただけだ。皆気づいてたんだよ、テメエらの下手糞な嘘。信用も信頼もされてねえ奴らに何言われても痛くもかゆくもねえな」


 は、と鼻で嗤うとあかりちゃんの後ろにいた人たちがぞろぞろと嘘をついた人たちの方へと歩いて来る。

 音信不通になった者、命を絶ったもの、会うことを許されなかった者、危害を加えてくるようになった者、すべて歩いて来る。あかりちゃんと同じ目つきで。

 ひ、と誰かが悲鳴を上げ、徐々に後ずさり、一斉に逃げ出した。蜘蛛の子を散らすように。

その様子をあかりちゃんは無表情のまま見つめ、やがて興味をなくしたようにその場から消えた。


「愛してるよ、結婚しよう」

「ありがとう、嬉しい!」


「ウソはいけないわ!」


世の中はウソがたくさんあると思わない?

そんなウソツキたちをこらしめるため、今日もあかりちゃんは東へ西へ、ウソを明かしていく!

真実は一つだもんね!



END

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