ださいおさむ

たられば

第1話 古くさい

これは私の習慣なのですが、毎年母親の御墓参りに来る度に歌を歌ってやるのです。だいぶもう古い歌ですからうる覚えの歌詞をぎこちなく歌っておるのです。ですがこの歌を歌っていると母親の笑顔がはっきりとお見えになるのです、

これは私がまだ19で母が亡くなってしまう2年くらい前だったかと思います、母はどうにも世に疎いものだったので、若い男女を見ていてあまり楽しそうな顔をしなんのです、ですが母はそれを後ろめてか世の時代に追いつこうと私からいろんな流行もんを聞いてなさったもんです。そんな風に母なりに流行もんにのっていた時でしたか、父と離婚して女手一つで私を育てることになって、流行りもんなんてと言わんばかりに仕事、仕事、仕事の毎日でして、大変忙しそうにしていたのを覚えています、そんな時ですかね、私がたまたま口ずさんだお歌が母の耳にとまったのです。

「懐かしいお歌を歌うんだね、どこで知ったんだい」

あまりに嬉しそうに聞くもんですから私は思わず

「流行ってるんです、皆さんお歌いになられますよ」

「そうかい」

少し満足気に言ってせっせと仕事に戻られましたが、それからですかね、私の母は家で毎日のように懐かしいお歌を歌いになさるのです、生き生きなすっていて、まるで若返ったかのように母はお歌いになられておりました、ですがそれから2年後に癌であっという間にお亡くなりになったのです。

親戚などもおらず一人っ子だったもんでお葬式もせんでお墓だけをたてたんです、それも立派なものではなく形だけの小さなものでした、そして私には子供と妻もいるもんですからあまりよく墓参りには来れんのです、毎日のようには歌ってやれんのです、ところで私も貴方に似たようで今ではすっかり流行もんに遅れたじじいになっておりまして、子供に流行もんを聞いてはカタコトに使っている始末でございます、実に時に置いてかれるという感覚は自分を過去の人間にしてしまうんでしょうね、貴方もきっとそう感じていたのでしょうか、まあそんときはまた墓参りに言ってお歌歌ってやりたいと思います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ださいおさむ たられば @Noah5511

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ