第2話



京都は東山にある隠れ家的なカフェ。

俺がこの店を開いたのがちょうど2年前。

京都は鴨川を越えて東に行くと一気に観光エリアになるが、その中でも東山区は観光客もそれほど多くないし京都風情がありながらどこか長閑で気に入っている。

昔から人通りが苦手でお祭りとかそういった類は嫌いだ。

大通りから少し中に入った場所で店を開いたのも、俺のそういう傾向からかもしれない。


しかしこの立地で300万で店を構えられたのは大きい。

友人や知人を集めて一切業者に頼まず自分たちの手で全部やった。

あの時は大変だったがもう一度青春が来たような気がして楽しかったなあ。

何より土木や水回りの工事をしている人間が友人にいたのがでかい。


人が人を呼んでインテリアの仕事をしている人を紹介してもらったり、絵が上手い女の子を連れてきてもらってメニュー表を書いてもらったりもした。

若い頃に部活や人間関係を頑張っていた甲斐があった。

あの頃はなんで俺が、面倒くさいと思ってしまう時もあったがなるほど大人になってこういう時に役に立つのかと昔の自分を称えたものだ。

準備中遊びに来た高校の同級生のさえちゃんに「昔から友達多かったもんね」と言われた時にはそんな風に思われてたのかとびっくりしたが。


そんなこんなで2年前の4月に開いたのだが、お嬢が初めて来たのは桜が散った後だった。

まだ暇な時間が多くてお客のほとんどが仲間内だった頃、お嬢はふわりとやってきた。


服装もシンプルで化粧毛がないのに品があって、決して美人ではないのにどこか雰囲気のある女性。

最初に「今日はお仕事はお休みですか?」と聞いて「今空きコマなんです。」と返ってきた時には思わず二度見したものだ。

当時お嬢は19の歳だったが、俺の知ってる19歳はあんなに艶やかな目をしていない。


お嬢はあまり喋らずたまに店内をボーッと見渡しては一杯のカフェラテをゆっくりと飲むだけだった。

その前に友人たちに単価がどうこう話していたのに、俺はどうしてもまた来てほしくて一杯のカフェラテに縋りついた。

いい歳をした大人がまだ成人もしていない女の子相手に恥ずかしいと言われればそれまでだが、その恥知らずの行為が功を奏した。


お嬢が来た日以降やけに新規のお客が続いて大学生が来るようになってからはSNSの魔力によって一気にこの界隈で広まったのだ。

それ以来俺は勝手にお嬢を福の神のように扱っている。

あの時の不細工なアプローチは悪くなかったようでこのお店は福の神の通り道となった。



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お嬢と呼ばれなくなった日 @itismygo

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