第10話 大切な人の死


大学終わりのその年、おじいちゃんが死んだ。

泣いて泣いて、そうちゃんとの恋が終わった時以来涙が涸れるんじゃないかというくらい泣いた。


おばあちゃんは泣かずに私の横で背中をさすってくれた。


お葬式が終わったあとにおばあちゃんにごめんねと謝った。


私がおばあちゃんの分まで派手に泣いたから、おばあちゃんはきっと泣けなかったんだ…。


そう言うとおばあちゃんは寂しそうに笑って違うよ、と答えた。


「珠美。そんなに悲しまんでいいとよ。死んだ人への一番の供養は、生きている人たちがたまに思い出して亡くなった人の話をしてあげる事なんよ。そしたら珠美の記憶の中でおじいちゃんはまだ生き続けるやろ?人間は死んだら終わりじゃないんよ。珠美やおばあちゃんの思い出の中でも生きてるって思ったら寂しくないやろ」


優しく静かなおばあちゃんの言葉一つ一つを聞きながら、また涙が止まらない私の頭をゆっくりと撫でてくれた。


「全然悲しくないって言ったら嘘になるけど、ずっと一緒におってくれた感謝の方が大きいんよ。だけどたくさんありがとうを言ってきたつもりでも、もっと言えば伝えれば良かった、って思うもんやね…」


年老いて、大切な人もいつかはこの世を去る運命を受け入れて、悲しむよりも感謝する、そんな事が私にもできるんだろうか。


おじいちゃんおばあちゃんのようにお互いを信じて思い合い、一生添い遂げる相手がこの先、私にも出来るのだろうか。



泣き腫らし、重たく閉じた瞼の裏に浮かぶのは変わらないそうちゃんの笑顔だった。


だけどもう、あの優しい笑顔の横にはきっと別の女の子がいる。


自分から連絡を絶ってもう随分会っていないのに、そんな事を考えるだけで胸の奥がチクリと痛む。


…もうここには帰ってこない人だ。

ダメだ…いい加減忘れないと。

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