第9話 離別
———忙しい毎日。すれ違う日々。
そうちゃんは私がいなくても全然平気そうだった。
私だけ寂しくて、私だけひとりぼっちで、彼が無邪気に笑ったり楽しそうにしてると悲しくて私だけ何もない人間のような気がしてたまらなくなる。
恋愛って全然楽しいものじゃない。
自分が自分じゃなくなっていく。
おじいちゃんがいい子だねって褒めてくれた、おばあちゃんが大好きだよって言ってくれた、今までの私じゃない。
大切に大切に守りたいのに、壊されるくらいなら自分で壊してしまえばいいとさえ思うようになっていった。
そうして遠距離になって2年目の夏を迎える頃。
不安に押し潰されそうになった私は東京へ会いに行く事を決意した。
たまにテレビ電話をしてもいつも忙しくて眠そうで、こっちに帰ってくるのなんて無理そうだったから私から行く事にしたのだ。
大学生になってもバイトはお父さんから許してもらえなかったから、お小遣いやお年玉をコツコツ貯めた。
行くならビックリさせようかな。なんて考えた私がバカだった。
彼の誕生日にバイトが入ってるのは知ってた。
当日は週末でチケットが取れなかったから翌日の月曜は休講だったし、日帰りでもいいかと思ってサプライズを企てた。
平々凡々な私にしては大冒険だった。
お父さんとお母さんには京香と旅行に行くと嘘をついた。
学校の行事や家族旅行以外で関東に一人で行ったことなんてない。
一人で飛行機乗るのなんて初めて、ドキドキ…そうちゃんは一人でチケットとって、気軽に海外にひとっ飛びなんだ…。綿密に計画を立ててからじゃないと動けない私じゃ考えられない。
すごいな。
一人、その空の上で、下に広がる雲を眺めた。
雲の下は雨なのに、今いる場所は青空が広がっている。
まるで自分とそうちゃんの未来を暗示してるみたいだと思った。
身近では大変だ、試練だと思う事でも別の場所から見れば幸せがある事に気づけないといけない。
そうちゃんのいない世界なんてどんより曇ってて、だけど私たちの心には明るい場所がちゃんと存在していて、いつかは晴れるのだ、この下界みたいに。
———だけど。
東京に着いたその日に、彼の裏切りによって私たちの恋は終わることとなる。
…多分、こんな私に嫌気がさしたんだ。
彼の隣にはもっとお似合いの子がいる。
私は縋り付く事も問いただす事もしなかった。
しょうがない。
こんな私だから愛されなくてもしょうがない。
それはいつしかこんな私を愛してくれる人はいないという思いに変わっていった。
「はぁ!?柴村が?」
京香は絶句した。
帰って来てから東京での出来事を正直に伝えた。
話してる間に東京まで会いに行った朝、他の女の子が彼の家から出てきたと。
こうやって私よりも怒ってくれる姿は真っ直ぐな京香らしくはあったけど、京香は柴村くんの事をまだ忘れてないのかもしれない。
必要以上に怒ってくれるのは彼を好きで信頼していた分、京香自身も裏切られた気分なのかもしれなかった。
京香は高校の時も私と付き合い出してもたまに柴村くんを熱い瞳で見ている事があったから何となく分かった。
私以上に怒り罵り、柴村は最低だ、そんなヤツは早く忘れて次に行った方がいいと言い切った。
そんな京香に後押しされて、早く彼を忘れるためにちょうど告白してきてくれた人と付き合う事にした。
あの時、ただ彼の前から消えたくて逃げた。
逃げて逃げて、逃げたら、この醜い私からもいつかは解放されるのだろうか。
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