第7話 遠距離恋愛

醜い私の祈りは届かず、彼は見事合格し、私たちは遠距離恋愛となった。


彼を空港まで見送りに行った時「大学の間は離れるけど、就職はこっちに戻ってくるから」と約束してくれた。


今だけ。

離れるのは今だけ。


頷きながら、これからの4年という年月を想像すると永遠のように途方もなく長い月日のように思えた。



———大学に進学し東京に行った彼は忙しくて、連絡の頻度がどんどん減っていった。


バイトに授業、しかも大学の単位取得のために海外留学に一度行ったら世界観が変わるくらい楽しかったらしく、さらにバイトの時間を増やしてバックパッカーみたいな事をやってた。


ツアーでもないし、そんな格安で大丈夫なんだろうか。

向こうでスリにあったり、何かに巻き込まれて殺されちゃったりしない?

不安な夜は一人で泣いた。


心配になって彼にも何度も聞いたけど、心配症だなぁと笑うだけだった。

たまに送られてくる彼の画像は明るくて日に焼けて、よく笑っていて、見るたびにオシャレでカッコよくなっていってた。


珠美も一回、海外行ってみたらいいよと言われた。

自分は今までなんて小さな世界で生きて来たんだろうと、それまでの常識とか当たり前だと思っていた価値観が変わると。


でもね、そうちゃん、私は今もそんな小さな世界で帰りを待ってるんだよ。

そう思ったけど、そんな事言えなかった。


いきなり知らない、遠くの人になったみたいだった。


いつのまにかいいねも押さなくなって、彼のSNSのフォローは外した。

見て辛くなるなら見ない方が幸せだ。

そう、小さい頃から見ないフリをするのは得意。


家ではやりたい事をやってのびのびと育ってきた弟、学校では私の周りの友達はみんな自分というものを持っている子ばかりで、中でも親友の京香は芯があってかっこいい———それに比べて言いたい事も言えずウジウジした後ろ向きな私…そんな私を慰めて認めてくれたのはいつもおじいちゃんとおばあちゃんだった。


数少ない私の理解者で、いつも認めてくれた二人に、今度は私がおじいちゃんおばあちゃん孝行をしたい。


あと、他にはその時の私の願いと言えば、そうちゃんと結婚したい。

ずっと一緒にいたい。

それしかなかった。


私はもともと自分というものがない。

だから自分というものを持っている人に憧れるのだ。

そうちゃん、京香…そして品種改良してこの土地でも美味しく育つように葡萄一筋で育ててきたおじいちゃんとおばあちゃん。

大好きな人に囲まれて大好きなここで暮らしたい。

地元を離れるとおじいちゃんおばあちゃんが悲しむから、帰って来たそうちゃんとここで暮らせるのが一番の幸せ。

だけど、それがそうちゃんの幸せなのかは分からない。


『小さな世界』

そうちゃんがそうやって比喩したこの街に対して、私の中でまた別の感情も生まれ始めていた。


…そうちゃん、次はいつ帰って来るのかな…。

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