第5話 私の最初の罪
もしも京香が自分も柴村くんを好きだと言ったら堂々と戦うしかない。
堂々と戦わないといけないなら…柴村くんが京香を選んだ時は諦めるつもりだった。
二人ともフラれるならお互い慰めあいこするのもいいかも、なんて。
でも、もしもなんて有り得ないのは知っていた。
ホントは分かってた。
京香の性格上、きっと私を応援してくれるのを。
「好きな男子出来たら教えて、って言ってたよね、京香。…どう、思う…?」
私は死刑宣告を待つ囚人のように祈った。
本当の事を言って欲しい。
そう思う反面、言わないでと願う。
この相反する気持ちが自分の一つの身体の中にあるのが不思議だった。
自分だけど、自分じゃない悪い私がいると初めて気づいた瞬間だった。
「…」京香がしばらく黙った後「———いいんじゃない。柴村なら」と首をすくめた。
「…」私は安堵のため息をついた。「応援してくれる…?」
「もちろん」
京香はそう言って私の肩を叩いた。
ゆっくり心の奥で開けてはいけない扉が開く音がした。
中から何かが出て来てしまうような焦燥にかられ、必死に押さえ込もうとした。そうしないと私が私じゃなくなる気がした。
そう、きっと、自分なのに自分じゃなくなるものに支配されてしまう。
私は目を瞑って耐えた。
「…ありがとう」私はゆっくりと目を開けて京香に笑いかけた。
その後、京香に協力してもらって、柴村くんに彼女か好きな子がいるか聞いてもらった。
そしたら彼は「彼女はいないけど、好きな子ならいる」と答えた。そして好きな子は田中さん、と。
京香からそれを聞かされ、信じられず天にも昇る思いだった。
彼が私と友達である京香に仲を取り持ってほしいと言ったらしく、告白は呼ばれて、彼の方から図書準備室でだった。
もう死んでもいいと思った。
両思いになる事なんてこの世に本当にあるんだと思った。
京香は柴村くんに「アンタ、珠美を泣かしたら承知しないからね?」と釘を刺したけど、翌朝その目が少し腫れてるのを見逃さなかった。
だけど私はそれも見ないフリをした。
…悪い事をしたって分かってる。
だけど初めての恋を失いたくなかった。
ねぇ、柴村くん。
あなたはこんな醜い女の子嫌いでしょう?
私がこんな子だって知ったら好きで居続けてくれないよね。
私も、こんな私が大嫌い。
だけど。だけど、願ってしまったの。
こんな私でも好きになってほしいって。
これが私の最初の罪。
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