第4話 親友の好きな人


「図書委員の男子の中ではいい方だよね。ね、京香」

一人の子が、女子のまとめ役になりつつある京香に話しかけた。


「———まぁ、ね。図書委員の中ではマシな方かな」

京香が答えた。


そう言いながら、京香はこの前柴村くんに本を戻す場所を間違えてたとみんなの前で怒っていた。


分類が間違えやすく、分かりにくい本だったらしい。


「あー、ごめん」と柴村くんは謝ったのに「この前も間違えてたでしょ!?行方不明になって困るんだからね」とさらに怒っていて、柴村くんは言われ慣れてるのかヤレヤレ…という表情だった。



…あれ。


ふと何だか嫌な予感がした。

京香はみんなの前で男子は滅多に褒めない。褒めるどころか貶す。

だけどそんな京香が「まぁマシ」という男子は初めてだった。


「…」

胸がざわついた。



その数週間後の体育祭でクラス対抗のリレーでアンカーを務めた柴村くんは僅差で逆転勝ちし、彼のクラスは見事一位になった。


ビックリするくらい美しいフォームで、風を切って走るその姿は颯太という名前がピッタリだった。


その走りに見惚れて、私以外にも彼の良さに気づいてしまった子がいるかもしれないと焦った。

私はいつのまにか両手を組み合わせて祈るように握りしめていた手の甲にクッキリと爪の跡がついていて、それを見て彼の心にも自分の跡を残せたらいいのに、と思った。



昼休み、自分の当番じゃなかったけど図書室に行った。

柴村くんの当番の日だったから。


こっそりと行くと、カウンターにちょうど京香がいた。

「———だから、ちゃんと日誌に書いてよ!?」

「ハイハイ、もううるさいなぁ、山田は」

ゲンナリした様子で柴村くんが頭をかいていた。


その後、本の場所を聞きに来た生徒に教えるため柴村くんが席を外すと、カウンターの入り口からよけてその様子を目で追っていた京香の横顔が見えた。


「…」

切なく、今までに見た事がない京香の表情だった。


私はギュッと手を握りしめた。



…あぁ、そうか…。

私は今まで京香が柴村くんに誰よりも小言を言っていたのが分かった。

ずっと目で追っていたからだ。


誰よりも目が行き、その一挙手一投足に神経を集中させている。

だから昨日彼が当番だったとか、誰がこの仕事をしたはず、とか分かるんだ…。


親友の好きな人に気づいてしまった。


私は図書室には入らず、そのまま教室に戻った。



「———どこ行ってたの?」

昼休み戻ってきた京香に聞いたら、一瞬黙った後に「職員室に。先生に分かんないとこ聞いてた」と答えた。


もしかしたら、今まで柴村くんの当番の日は京香は図書室に行ってたのかもしれない。



———京香相手じゃ、絶対に勝てない。

いつもカッコよくてみんなから頼りにされてて、美人でスタイルもいい。


大人しくて地味な私なんて、真っ向から戦おうとしてもきっと無理だ。

自分の心が黒く染まっていくのを感じた。


「———ねぇ」


私は顔を上げた。


「何?」


「京香、前に私にもう少し男子に慣れた方がいいって言ったよね…?」


「うん。珠美は男子に遠慮しすぎなのよ。もっと思った事言わないとすぐつけ上がるんだから」


そう言って怒り気味な京香に「違うの」とその腕を掴んだ。

「———あの…あのね。実は好きな人が出来たの」


私の言葉に京香は目をまん丸くした。


「———えっ、嘘!いつのまに!えぇ、ダレ!?」

京香がガシ、と私の肩を掴む。


ねぇ、柴村くん。

こんな私を知ったら嫌いになるかな。


私は京香の目を真っ直ぐ見つめて言った。

「———柴村くん。同じ図書委員の柴村くんが好きなの」

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