第3話 彼のこと
そうして夏休み明けも柴村くんとは何回かカウンター業務に入り、少しずつ喋る事が増えた頃、図書委員会の女子達の間で学年やクラスで人気のある男子の話になった。
人気の男子は大体サッカー部や野球部のカッコいい男子で、誰がいいだの言いあってるうちに、図書委員の男子は文化系でイケてないと誰かが言った。
「そう、図書委員選んでる時点でアウトだよね」
「運動音痴そう」
「うん、ダサい。イケてる男子いないよね」
女子だけになると自分の事は棚に上げて結構言いたい放題だった。
みんな見る目がないなぁ。
柴村くんはダサくないし、意外とカッコいいのに。
あの優しい目がいいんだよね。
髪型もあんな無造作なのじゃなくて、きちんとしたらもっとイケてると思う。
でもいいの。
彼の良さを知ってるのは私だけでいい。
ライバルは少ない方がいい。
ひそかにそんな事を考えてると、柴村くんと同じクラスの女子が「あ、でも同じ委員の柴村、結構足早いんだってよ」と言い、ドキっとした。
「この前、体育祭の選手決めの時、柴村がアンカーに選ばれてさ。体力測定で50メートル走、クラス一早かったらしいんだよね。聞いたら中学ん時陸上部だったんだってよ」
「えー、何で高校でやんないんだろね」
「金ないんだって、母子家庭で。陸上は県大会より先に進むと遠征の大会とかで意外と金かかるって」
母子家庭?
そうなんだ。知らなかった。
また柴村くんの事を一つ知る。
「お母さんと二人暮らしって、お母さん一番で一生敵わなそうじゃない?」
「マザコン?」
キャハハとみんなで笑う。
みんな、逆に自分が男子から言われてたら嫌だって思わないのかな。
こういう時私はダンマリを決め込む。
同意もしたくないけど、そういうのやめなよと言う勇気もない。
だから喋らない田中さん、なのだ。
でもお母さん一番で大事にしてて何が悪いの?
産んでくれた人に感謝して大切にするのって当たり前なようでなかなかできないと思う。
私なら、彼が大切にしているお母さんなら一緒に大切にしたいし、彼を産んでくれてありがとうございます!って伝えたい。
だって彼のお父さんとお母さんがいて、産まれてきてくれて、今こうやって巡り会えたんだから。
うちのおばあちゃんが言っていた。
『珠美の誕生日は産まれた事をみんなでお祝いする日だけど、お母さんが無事に珠美を頑張って産んでくれた日だから、今健康でここにいるんだよ。みんなからおめでとうと言ってもらえた分だけ、お母さんにもありがとうって感謝しなさい』って。
おばあちゃんはお嫁さんであるうちのお母さんとは仲がいい。
おばさん一家が隣に住んでるけど、多分そのうち、我が家が実家に戻っておじいちゃんおばあちゃんの面倒をみるんだと思う。
いつか私も結婚した時にはうちのおばあちゃんとお母さんみたいに、旦那さんのお母さんとは仲良くなりたい。
そして旦那さんになる人は初めて付き合う人がいいなぁ…。
旦那さん…とそこまで考えて柴村くんが思い浮かんだ。
慌てて想像を打ち消す。
まだ付き合ってもないのに話が飛躍しすぎ!
でも、柴村くんはお家は裕福じゃなかったとしてもその辺の男子よりも清潔で、きちんとお礼を言ってくれて、いつも信念があって真っ直ぐ発言をする。
正しいかどうかは別だけど、大事な時に自分の意見を言える人はカッコいい。
だって私は言えないし…。
目立ってるとか面白いとかスポーツが出来るとかよりも、そういう方が大事。
でも彼のたまに見せる、何かを背負ったような薄暗い何かは家庭環境か、とも納得が出来た。
昔から私は少女漫画やアニメで主人公の相手役の分かりやすいカッコいいヒーローよりも、過去に何かある一筋縄でいかないキャラがタイプという変な子だった。
主役は張らないけど、宿命を背負ってたりして、そういう彼を理解し、好きになるのは自分だけ、という陶酔にも似たような恋愛漫画によく感情移入した。
だけど、実生活で男の子を好きになったのは初めてだった。
だって同級生の男子にそんな子は居なかった。
ただ暗いだけの男子とかならいる。
でもそうじゃなくて、あの一見、爽やかで優しそうだけどちょっと陰がある、あの共存してる感じがまさに自分のタイプなのだと改めて思った。
「県大会より先ってどんだけだよ」
あはは、と笑う女子のうち一人が「でも柴村くん、うちの委員の中ではちゃんと真面目にやる方だよね」と言った。
「あー、確かに。この前一緒に入った時、重たい本全部片付けてくれた」
…なんだ、私だけにしてくれてるんじゃないのか。
ちょっとガッカリしつつも、彼の良さをまた一つ知る。
誰に対しても平等。
ポイント高い。
自分の好きな子とかある特定の女子にだけいい顔するんじゃなくて、みんなに同じ態度っていい。
女の子全員に優しいのは育ててくれたお母さんのおかげだなと思った。
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