第3話 遠距離恋愛の形

付き合い始めてからずっと遠距離恋愛でした。


距離はそれほど遠くはないが、さすがに毎日会えるような距離ではありませんでした。


私たちの仕事の形態によって、会える日の調整は難しかった。私の場合は平日東京にいることがメインだけど、見本市や農場へ行くことが多く、いろんなところへ行かなければなりません。海里の場合は主に農場にいるが、週末になると客が沢山来るので、基本的に抜け出せません。


だから、私たちは予め決めた日に会うのではなく、時間がある限りの“突撃訪問スタイル”を選びました。例えば、東京を離れて他の都市や地方に行く時、その帰りに海里のところへ行き、駅前のカフェで数時間のデートでも楽しむことができた。泊まる時は駅前のホテルに一緒に泊まることにしました。海里は実家暮らしだから、さすがにそこで泊まるわけにはいかないと思いました。


海里の場合は週一の平日に休暇することになるから、その日の午後に東京へ泊りに来て、翌朝の一番早い電車で帰ることにした。元々自分で運転することになっていたが、長距離の運転でかなり疲れるので、海里に電車で来る方がいいと言った。


ただ会うために、こんな工夫をしなければならないが、私たちは諦めるなんて一度も考えていませんでした。しかし、将来のことを考えると、いずれ海里のところへ引っ越すことになるでしょう。今はまだ仕事で頑張りたいと思うので、結婚はまだ先の話だと思います。



真由奈と付き合うことはすごく幸せだけど、ただ唯一の不満は毎日会えないことでした。


お互いの仕事を考えると、今同じところに住むことはまず不可能でした。もちろん、将来結婚する時は遠距離のままでいたくないが、今は原状維持しかできません。


しかし、予想外のことが起きてしまいました。


コロナでみんなの生活に巨大な影響を与え、最初はそんなに深刻なことではなかったと思いましたが、次第に状況が急速に悪化し、緊急事態宣言まで出されました。それによって、自由に真由奈のところへ行けなくなり、彼女もこっちへ来ることも難しくなりました。もちろん、スマホで連絡は取れるけど、やっぱり会えないことは二人にとってかなりしんどいでした。


その上、コロナ禍でお互いの仕事にも支障が出ました。農場に来る観光客の数が減り、商品を運送する時も遅れが出始めて、いろんな問題の解決に追われていました。真由奈のところも臨時閉店や仕入れなどの問題に対応しなければなりませんので、俺たちが連絡できる時間がさらに減りました。


俺は家族と一緒にいられるけど、真由奈は一人で東京に住んで、実家の両親や兄家族を心配していても会えませんでした。心細くなるのは当たり前だけど、真由奈は俺を心配させないために気丈に振舞っていました。緊急事態宣言が終わってすぐ、東京へ行って真由奈と会いました。俺が忘れないのは、久々の再会で彼女の安堵した表情でした。数日間一緒に過ごすことが出来ましたが、仕事で農場へ帰る時真由奈を連れて帰りたかった。


俺たちにとって、付き合っていた期間中の遠距離恋愛は俺たちで決められた形で行われたものでした。だから離れ離れになっても、俺たちはそれなりに幸せでした。だけど、コロナのせいでやむを得ない形の遠距離恋愛に強いられた俺たちにとって、この状態にたくさんの不安や不満を感じてました。それに、この状況がいつまで続くかは知りませんでした。


状況は良くなったり悪くなったりの繰り返しが続いているうちに、真由奈は12月のある日、事前の連絡がなく俺のところに来て、予想外のことを口にした。


「北川海里さん、私と結婚してください」

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